最近、若い女性たちの間でも大人気の『鳥獣戯画』。
ウサギやカエル、サルなどの動物が、相撲を取ったり、水遊びをしたり、綱引きしたりと、墨で生き生きと描かれたこの800年前の絵巻物は、現在のマンガにも用いられるような手法が見られることもあって、「日本最古のマンガ」ともいわれています。
そんな『鳥獣戯画』の代名詞ともいえる「甲巻」について、詳しい内容をご紹介していくこの連載。
今回は、23紙からなる「甲巻」の、1~4紙までを解説してみたいと思います!

甲巻「第1紙 – 第4紙前半」。
~ 第1紙 ~
現存する『鳥獣戯画』甲巻は、深山の清水の光景から始まります。
画像左下に、岩場の影から、『鳥獣戯画』甲巻の主要キャラクターであるウサギとサルが顔を覗かせているのがお分かりになるでしょうか?
そしてここから、第2紙のウサギとサルの水遊びのシーンに入っていきます。
~ 第2紙 ~
右上のウサギが、鼻をつまんで一気に背中から、まさに水へ飛び込もうと重心を背中にかけています。
そして、すぐ左横には、水面から足だけを出しているウサギもいます。
諸説ありますが、この2羽のウサギは、同じウサギのわずかな時間の経過を、同じ画面に描いたものなのではないかと考えられています。
こうした同じ登場人物の異なる時間を、同じ空間に描き込むことを「異時同図法」と呼び、絵巻物でよく使われている手法のひとつとなっています。
この手法も、よくマンガで見かけますね!
~ 第3紙 ~
甲巻冒頭の水遊びの情景はとりわけ、川の流れの描き方に定評があります。
特にこの第3紙に描かれている「ウサギの川渡り」の場面では、巧みな線描が活かされ、とりわけ水流の描き分けが素晴らしい。
自分の身体が濡れないように、ウマに見立てられたシカに乗って、慎重に川を渡るウサギ。その後ろからは、いたずら好きのサルが水を浴びせています。
”対岸まであともう少し” というところで、すべて台無しにしてしまうようなひと幕です。
こうしたトリックスター的かつ、純粋無垢ないたずらが描かれるところが、『鳥獣戯画』の「戯画」たるゆえんです。
~ 第3-4紙 ~
線描だけで霞がたなびく様子が表現され、いよいよ深山の雰囲気が濃くなっていきます。
と思えば突然、モノの大きさを無視して、木や山を俯瞰するような描写や、画面奥の霞のなかに見える滝など、多層の視点が合わさっているのが分かります。
また、甲巻全紙を通じて描かれる植物は、すべて秋の草木。これにより、甲巻の季節は秋だということが分かります◎
~ 第4紙 ~
第4紙は一転して、落葉した木々の姿をのぞかせた後、遠景の松林が濃い霞のなかに姿を現します。
しばしば、横へ横へと水平に続く絵巻物では、突然場面を転換させるために、「霞」の表現を間に挟んで、時空間を移行させる手法がとられることがあります。
その「霞」は、雲のようでもあり、霧のようでもあり、何も描かれていない空気のかたまりとして描かれています。
これは「すやり霞」と呼ばれ、場面の転換・遠近感、時間の経過を示す装置であり、映画にたとえるならば、「フェードイン」、「フェードアウト」と同じ演出効果があるといえます。
出典:『世界に誇る鳥獣戯画と日本四大絵巻』 山口 謠司 監修(メディアソフト)

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