最近、若い女性たちの間でも大人気の『鳥獣戯画』。
ウサギやカエル、サルなどの動物が、相撲を取ったり、水遊びをしたり、綱引きしたりと、墨で生き生きと描かれたこの800年前の絵巻物は、現在のマンガにも用いられるような手法が見られることもあって、「日本最古のマンガ」ともいわれています。
そんな『鳥獣戯画』の代名詞ともいえる「甲巻」について、詳しい内容をご紹介していくこの連載。
今回は、23紙からなる「甲巻」の、第8紙~第10紙までを解説してみたいと思います!

甲巻「第7紙後半 – 第10紙」。
~ 第8紙 ~
第7紙の最後で後ろをふり返っていたウサギが示していたもの、それは賭弓(のりゆみ)の後に行われる酒宴でした。
長唐櫃(ながからびつ)をかつぐ2羽のウサギ、大きな酒甕(さかがめ)を重たそうに運ぶカエルとウサギ。
宴のためのご馳走を運ぶ動物たちが、当時の物品の様子もディフォルメしつつ、こまかに描き込まれています。
長唐櫃の上には、スズメのような鳥がくくり付けられているのがお分かりになるでしょうか?
このスズメも酒宴に並ぶご馳走のひとつとされていますが、『鳥獣戯画』甲巻は、あくまでも動物たちが人間のモノマネをする「ごっこ遊び」を描いたものとされ、殺生の光景は描かれていないとする説もあります。
その意味では、このスズメは酒宴のご馳走のフリをしているにすぎないのかもしれません。
詞書(ことばがき)のない『鳥獣戯画』の魅力は、こうした自由な解釈を許してくれる点にもあるのです。
~ 第9紙 ~
宴のためのご馳走を運ぶ行列は、まだ続きます。
ここで、画面右下に描かれている、長唐櫃の中央を支えるウサギの右足に注目!
なんと、上から描き直しているのがわかります。
まるで一筆書きのような軽やかさで描かれた『鳥獣戯画』が、宮廷貴族たちの献上品だったとする説とは矛盾する点です。
そんな大事な献上品ならば、このような雑な訂正はしないでしょう。
画面中央左を歩くウサギの後ろについてくるのは、一見するとキツネのように見えます。
しかし、『鳥獣戯画』甲巻では、丸い黒い目と細長い目の動物が描き分けられていることから、丸い目の方の動物をイヌとする説もあります。
これは、のちほど登場する法会(ほうえ)のシーンでも顕著に見られる描き分けです。
第9紙中央では、矢を腰に差したウサギが後ろをふり向き、仲間を呼んでいます。
腰に指した弓が、第6、7紙の賭弓の場面との連続性を担保し、また同時に、後ろをふり向いて描かれることで、第10紙との連続性も表現しているのです。
~ 第10紙 ~
『鳥獣戯画』甲巻の全23紙のうち、どこに視点を合わせるかで、見え方がガラリと変わってしまうのが、この第10紙です。
第10紙の中央には、第9紙の中央付近で後ろをふり向いて手招きするウサギに呼応するようにして、急いで走ってくるウサギが描かれています。
しかし景色を見てみると、第9紙では前景の土手にすぎなかった山が、第10紙ではまるで遠景の稜線に変わったように映るのです。
そのように見てみると、このウサギは、宙に浮かんでいるようにすら見えます。
白描画のためわかりづらいのですが、狐火のかがり火や、のちに登場する法会のシーンに描かれたフクロウ(本当はミミズク)などの要素から、しばしば「『鳥獣戯画』甲巻の時間帯は夜なのではないか?」とする解釈もあるそうです。
ウサギの左画面では第10 紙が終わり、第11紙に接続されていきます。
この箇所が、現存する甲巻のうち、連続性が疑問視されている部分のひとつです。
第10 紙と第11紙の継ぎ目には、「高山寺」の押印がされていますが、これはおそらく、バラバラになった甲巻を再度つなぎ合わせた際に押印されたものだろうと考えられています。
出典:『世界に誇る鳥獣戯画と日本四大絵巻』 山口 謠司 監修(メディアソフト)

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