最近、若い女性たちの間でも大人気の『鳥獣戯画』。
ウサギやカエル、サルなどの動物が、相撲を取ったり、水遊びをしたり、綱引きしたりと、墨で生き生きと描かれたこの800年前の絵巻物は、現在のマンガにも用いられるような手法が見られることもあって、「日本最古のマンガ」ともいわれています。
そんな『鳥獣戯画』の代名詞ともいえる「甲巻」について、詳しい内容をご紹介していくこの連載。
今回は、23紙からなる「甲巻」の、第11紙~第12紙までを解説してみたいと思います!

甲巻「第11紙後半 – 第12紙」。
~ 第11紙 ~
急に場面は転換して、第11紙、第12紙へ。
『鳥獣戯画』甲巻のなかで、そのつながりが疑問視されている部分です。
この理由には諸説あり、”甲巻はもともと2巻で構成される本だった”とするものが、現在のところ最も有力な説です。
「第1巻」は、水浴びの前に別の絵が続き、現存する甲巻の第10紙で終了。
それ以降は、「第2巻」となるという構成です。
今回説明する第11紙の前には、断簡(だんかん。きれぎれになって残っている文書のこと)や、模本(もほん。原本のとおりに模写した本のこと)、現存する16〜23紙までが接続すると考えられています。
ちなみに、第11紙と次の第12紙に描かれているのは、サルの僧正に対し、お布施として「シカが扮するウマ」と、「イノシシが扮するウシ」が贈られるというシーンです。
~ 第12紙 ~
第11紙のサルの僧正とシカが描かれる場面では俯瞰の視点が強いですが、カエルが轡(くつわ)をとるイノシシが登場する第12紙では、画面は徐々に水平のアングルへと切り替わっていきます。
『鳥獣戯画』甲巻で描かれる動物たちはみな、2本足ですっくと立って人間たちのモノマネをしていますが、シカとイノシシだけは例外です。
その理由としては、第7紙で見たように、『鳥獣戯画』甲巻の作者は、ただ即興でこの作品を描いたわけでなく、かなり細かな動物観察に基づいて描いたことが理由だと考えられています。
シカやイノシシといった四足動物には、もともと2本足で立つことが無理なことから、甲巻ではいずれも擬人的表現には至っていないのです。
こういった点からも、『鳥獣戯画』甲巻には独特のリアリズムが貫かれていることが分かりますね◎
さて、第12紙の後半では、草履(ぞうり)を持ったイヌ(丸い目の描写でキツネと区別される)と、笠袋をかついだウサギが、行列の後方で後ろを振り返っています。
第7紙や第9紙にもあるように、キャラクターの目線によって、次の場面に何が起きるのか巧みに誘導しています。
これも、右から左へとつなげて読んでいく、絵巻物ならではの表現です。
出典:『世界に誇る鳥獣戯画と日本四大絵巻』 山口 謠司 監修(メディアソフト)

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