最近、若い女性たちの間でも大人気の『鳥獣戯画』。
ウサギやカエル、サルなどの動物が、相撲を取ったり、水遊びをしたり、綱引きしたりと、墨で生き生きと描かれたこの800年前の絵巻物は、現在のマンガにも用いられるような手法が見られることもあって、「日本最古のマンガ」ともいわれています。
そんな『鳥獣戯画』の代名詞ともいえる「甲巻」について、詳しい内容をご紹介していくこの連載。
今回は、23紙からなる「甲巻」の、第13紙~第16紙までを解説してみたいと思います!

甲巻「第13紙 – 第16紙」。
~ 第13紙 ~
第13紙から描かれる、サルとウサギ、カエルの追いかけっこのシーンは、平安時代の宮中行事を描いた『年中行事絵巻』に登場する、「印地打(いんじうち)」との類似を指摘する研究もあります。
「印地打ち」とは、旧暦のお正月や5月の節句などに行われた、子どもの行事のこと。
「印地」はそもそも「石投げ」のことを意味し、合戦をまねてふた手に分かれて石を投げ合ったといいます。
ところがこの印地打ち、子どもの行事だったのが、しだいに大人も参加するほどに過熱し、挙げ句には本身の刀などを持ち出す者も現れ、死傷者が相次いだほどだったと伝わっています。
~ 第14紙 ~
引き続き、「印地打ち」の場面が続きます。
ウサギに続いて、カエルたちもサルを追いかける後ろで、カエルが1匹、あお向けで大の字に倒れているのが見えます。
『鳥獣戯画』甲巻の後半、第21紙〜第22紙にかけては、「法会(ほうえ)」のシーンが描かれていますが、サルの僧正がお経をあげる先には、仏像役を演じるカエルがいます。
この場面は、印地打ちで倒れたカエルの供養をしているとする説もあるのですが、『鳥獣戯画』には絵巻物の説明文である「詞書(ことばがき)」がないため、実際のところは分かっておらず、あくまでも推測の域を出ていません。
~ 第15紙 ~
カエルの事件のシーンから目線の誘導によって、自然に「田楽」の場面へと移動していく第15紙。
キツネの親子やネコ、ネズミなどが登場します。
ネコにおびえるようにして、ウサギの影にネズミが隠れているなど、動物同士の関係も巧みに表現されているのが分かります。
また、画面右手、倒れたカエルの取り巻きのなかにいる、キツネの腰に注目。
第14紙の倒れたカエルの横に落ちていた葉っぱとそっくりの形の草を、このキツネは身につけています。
『鳥獣戯画』甲巻は、動物たちが身につける衣装も、平安期の人々が実際に身につけていたものを的確に再現しており、この葉っぱにも何かしらの意味があると考えられています。
さて、画面左では、カエルの「田楽」のシーンが展開されています。
この「田楽」も、「印地打ち」と同様に中世時代からの年中行事のひとつ。『年中行事絵巻』には、これとよく似た構図の絵がたくさん出てきます。
「田楽」などの祭りのたぐいは、しばしば邪気を払うとされ、中世の日本においては大切な年中行事として、人々に親しまれていました。
~ 第16紙 ~
「田楽」の見物客を描いた、第16紙。
本来は、第15紙と16紙の間には別の絵が入っており、「田楽」の場面はもっと長かったと考えられています。
背景にある萩の大株に向かって右側の落葉が、現存では不自然に切れてしまっているのですが、東京国立博物館に所蔵されている『鳥獣戯画』甲巻の一部とみなされる「断簡(だんかん)」(きれぎれになって残っている文書のこと)には、この落葉の続きがきちんと描き込まれているのです。
出典:『世界に誇る鳥獣戯画と日本四大絵巻』 山口 謠司 監修(メディアソフト)

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