日本の大学を卒業後、アメリカの短大でホスピタリティを学び、現在はアジアの航空会社でキャビンアテンダント(CA)としてお仕事中の筆者が、日々のフライトで経験した、CAならではのウラ話をお届けしていきます◎
今回は、ちょっと考えさせられたフライトの話をしてみようと思います。
ふだんはいない地上係員が、機内の「トイレ」で探し物?
数年前の、日本から本国へ戻ってくるフライトでのお話です。
ふだんのフライトでは、お客様が搭乗される前に、乗務員は機内サービスに使う物を用意したり、安全のためにセキュリティーチェックをしたりします。
そんななか、この日はいつもこのタイミングにいるはずのない地上係員の方が、機内でバタバタと何か探している様子でした。
ご迷惑かな? と思いながら、その方に何をしているのか聞いてみたところ、「お客様のパスポートを探している」とのこと。

ついうっかり落としてしまった可能性も。
たまに機内にパスポートなどを忘れていくお客様はいらっしゃるので、それ自体はまったく不思議ではないのですが、私が気になったのは、その地上係員の方が探している”場所”。
「トイレの中」だったんです!

ボーイング機のトイレ(Krysja / Shutterstock.com)。
忘れ物といえば、ほとんどが座席なので、いったいなぜトイレで探しているんだろう? と、一瞬ぽか~んとしてしまいました。
「パスポートを持ってない」と言い張るお客様
よくよく事情を聞いてみると、「某アジア人のお客様のパスポートを探している」のだとか。
そのアジア人のお客様は入国審査中で、しかも「自分はパスポートを持っていない」と言い張っているとのことでした。

シンガポール・チャンギ国際空港の入国審査場(Tang Yan Song / Shutterstock.com)。
いったいなぜそんなことを言っているかというと、パスポートがないと難民申請ができるから、というワケです。
そういうお客様が時々いるんだと、その地上係員の方は言っていました。
しかし、そもそもこの飛行機に乗る際に、パスポートと搭乗券のチェックはしているので、飛行機に乗れたということは、確実にパスポートはあったはず。

機内に乗る際のセキュリティーチェックでは、必ずパスポートをチェックする。
ということは、機内に乗っている間にパスポートを捨てた、もしくは隠したとなるワケです。本当になくしたという可能性もありますが……。
パスポートはかなり堅いので破るのは難しいうえ、大事なパスポートを破るのはさすがに思い切れない。
そういうお客様は、パスポートを椅子の下に隠したり、トイレのどこかに隠したりするらしいのです。

パスポートはどこに……。
結局そのパスポートは見つからず、飛行機は本国へと飛び立ちましたが、その後、そのアジア人のお客様がどうなったかはまったく分からずじまい……。
何年も前のことなので、今現在パスポートがないと難民申請ができるのかどうかも分かりませんが、今となっては、後日またその地上係員の方にお話を聞いてみれば良かったなと思っています。
”安全ではない国に暮らす”ということ
日本は安全な国で、身の危険を感じて海外に難民申請するなんてことは考えられませんし、今年5月には日本のパスポートがシンガポールやドイツを抜き、「世界のパスポートランキング」で単独トップになりました。

それぞれの国によって、パスポートの「強さ」が違ってくる。
日本は、世界でそれほど認められているぐらい、安心して暮らせる国なのです。
しかしその一方で、世界にはまだまだ政治的な問題や民族問題、戦争や紛争などで苦しんでいる国がたくさんあります。
個人ではどうしようもできない国の事情が、そのアジア人のお客様にそういう行動を取らせたんだなと思うと、とても複雑な気持ちになりました。

難民としてカナダに入国したシリアの家族(Stacey Newman / Shutterstock.com)。
世界中と接するキャビンアテンダントの仕事をしていると、ときにこういった国ごとの違いや事情を考えさせられる機会に出合い、自分の価値観を見直すきっかけになったりします。