ペトラを築いたナバテア人とは
ヨルダン中南部に位置し、死海とアカバ湾の間にある渓谷に築かれた古代都市ペトラ。
砂漠地帯にこつ然と現れるこの巨大な遺跡は、ペルシャ語で「崖」を意味する名前の通り、高さ約60~100mメートルにも及ぶ断崖絶壁と、「シーク」と呼ばれる岩の裂け目によってできた幅3mほどの細い道で構成されています。

ペトラへの入り口「シーク」。今にも両側から絶壁が迫ってきそうだ。「バラ色の古代都市」と呼ばれるゆえんとなった、赤味を帯びた岩の色彩も美しい。
この天然の要害ともいえる地形を利用して、紀元前2世紀頃、遊牧民族ナバテア人によって築かれました。
ナバテア人は、もともとペトラ周辺を拠点に活動していた遊牧民でしたが、砂漠を移動するキャラバン隊との貿易によって莫大な富を築くと、すでにペトラに住んでいた先住民エドム人を追いやって、この地で定住生活を営むようになったといいます。
ペトラの驚くべき都市機能
ナバテア人は切り立つ断崖を削ることにより、ほかに類を見ない巨大な建築物を次々と生み出していきました。
同時にペトラはアラビア交易の中継地として栄え、最盛期には数万人ともいわれる人口を抱える大都市に発展。アラビアの北西一帯を支配するまでに至りました。

遊牧民ベドウィンが観光用に連れているラクダ。
この砂漠の都市がここまで繁栄した理由のひとつに挙げられるのが、ナバテア人の治水技術の高さ。
ペトラ周辺は完全な岩礁地帯であるため、農業に不向きなうえ、雨が降ると、雨水が地面に吸収されることなく鉄砲水となって渓谷内を通過していくという過酷な土地でした。
そこでナバテア人はダムを作ることで鉄砲水を防ぎ、さらに街中に水道管を張り巡らせて砂漠地帯でも水が常に得られる給水システムを作り上げたのです。
遺跡には今も当時の水道管の跡などが残されていて、当時の技術の高さをうかがい知ることができます◎
1000年の眠りについたペトラ
遺跡に残る主な建築物は、古代ギリシャ建築の影響を受けていますが、紀元前64年頃から古代ローマ帝国の将軍、ポンペイウスによってその支配下に置かれると、街にはローマ風の建築物が造られるようになっていきました。

古代ローマ時代に建てられた「ビザンチン教会」の床に残る、ローマ風のモザイク(Ramillah / Shutterstock.com)。
しかしその後、たび重なる大地震などの影響で衰退の一途をたどったペトラは、ついに749年に滅亡。
1812年に発見されるまで、およそ1000年にわたって誰にも見つかることなく眠りについていたのです。
このため、「忘れられた都」とも呼ばれています。
ペトラ最大の見所「エル・カズネ」
ペトラ観光のクライマックスは、いちばん初めにやって来ます。
それは、ペトラを象徴する建物「エル・カズネ」。

高さ41mの「エル・カズネ」。アレタス3世と妻の墓として造られたのち、神殿となった。
ペトラへと続く「シーク」は、人ひとりが通るのがやっとという狭さ。そして両脇には高さ約60~100メートルという圧倒されるほどの断崖がそびえ立ちます。

何も見えない暗く細い道を進んだ先に、突如として現れる。
この細く暗い道を30分ほど進むと、突然視界が開けたところに「エル・カズネ」が現れるのです。
冒険好きにはたまりませんね!
映画「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」の舞台としても知られるこの建物は、幅約30メートル、高さ約43メートルに及び、1世紀初め頃に造られたとされます。
「エル・カズネ」とは「宝物殿」という意味ですが、葬祭殿、霊廟、寺院など諸説あり、その使用目的は今もって謎とされています。
このほかの観光ポイント
ペトラには数十もの遺跡があって、見所もたくさん。
たとえば、3000人もの収容人数を誇るローマ式の円形劇場、「王家の墓」と呼ばれる岩窟墳墓群、そして800段の石段を上り詰めた先にあるペトラ最大の遺跡「エド・ディル」(修道院)は、映画「トランスフォーマー / リベンジ」の舞台になったことでも知られています。

古代ローマ時代に造られた円形劇場。

多くの墓が並ぶ、「王家の墓」。写真右下に見えるのは 「壷の墓(アーンの墓)」と呼ばれ、当初はナバテア王の墓として造られたのち、5世紀にはキリスト教会として再利用された。

「修道院」を意味する「エド・ディル」。ローマ帝国による併合後、キリスト教修道士が住んでいたことに由来する。
また、岩山の頂上にある「犠牲祭壇」は、ペトラ屈指のビューポイントとなっていて、眼下に広がる遺跡群と荒涼とした赤茶色の大地は一見の価値あり。

岩山の上へと続く階段。かなり長時間歩くことになるため、水分が切れないように余分に持っていくと良い(Luisa Puccini / Shutterstock.com)。
ちなみにペトラでは現在も発掘調査が行われていて、観光用に公開されている部分は、驚くべきことに遺跡全体の1%にすぎないとのこと。
残りの99%にいったいどんな謎が埋もれているのか、考えるとワクワクしてしまいますね!
遺跡がキャンドルの光に浮かび上がる「ペトラ・バイ・ナイト」

美しい星空と、キャンドルに照らされて闇に浮かび上がる「エル・カズネ」。日常を忘れられるトリップ感満載の光景だ。
無数のキャンドルが照らされた幻想的なペトラが見られるイベント、「ペトラ・バイ・ナイト」。
ふだんは昼間しか見られないペトラですが、このイベントでは真っ暗ななか、キャンドルの灯りを頼りに「シーク」を歩いて「エル・カズネ」まで行くことができ、さらなるアドベンチャー感を体験できます!
「エル・カズネ」前の広場では、温かいミントティーやチャイなどを飲みながら、地元の遊牧民族ベドウィンが奏でる伝統的な音楽ショー付き。
開催されるのは、毎週月・水・木曜日の夜20時半からおよそ2時間程度で、チケットはおよそ2700円ほどだそうですよ◎
DATA
◉ベストシーズン:3月〜5月、10月〜11月
◉アクセス:首都アンマンから、バスで約3時間。