SF映画に登場する、見知らぬ惑星のような光景
イタリア南部。ナポリ湾に面したソレントは、世界遺産であるアマルフィ海岸を擁する、風光明媚なリゾート地として知られる街。
その中心地であるタッソ広場の近くには、”陽光あふれる海辺のリゾート”というイメージとはかけ離れた、緑に覆われた廃墟「ムリーニの谷(ミルズの谷)」があります。

美しい海岸線が続く、ソレントの景色。じぐざくに入り組んだ断崖を走る国道163号線沿いには、ポジターノ、アマルフィ、ラヴェッロ、アトラーニ、サレルノなどの美しい街が点在している。

ソレントの中心に位置するタッソ広場(nikolpetr / Shutterstock.com)。

ムリーニの谷(ミルズの谷)と、そこにたたずむかつての製粉所。多くの人でにぎわう繁華街のすぐそばにあるとは思えない、緑豊かで美しい光景が広がる。
この「ムリーニの谷(ミルズの谷)」と呼ばれる場所は、もともと長い年月をかけて川が大地を削っったことによってできた峡谷でした。
そして10世紀頃、この谷底に石造りの小麦の製粉所が建てられたのです。「ムリーニ(Mulini)」とはイタリア語で「製粉所」を意味し、「ムリーニの谷(ミルズの谷)」は、この製粉所にちなんで付けられた名前です。
この製粉所はその後約1000年という長きにわたって使用されましたが、19世紀にタッソ広場が建設されると谷の温度と湿度が上がり、製粉に適さなくなってしまったことから、20世紀初頭に閉鎖・放棄されることになりました。
しかし、この高温多湿の環境が希少なシダ類の成長に適していたことから、徐々に製粉所もその周囲も緑で覆われていき、現在のような姿となったのです。
その光景は、まるでSF映画に登場する見知らぬ惑星か、はたまた絵画のように美しい光景で、今では街の観光名所のひとつとして、多くの人が訪れています。
ちなみに、タッソ広場から歩いてすぐのフオリムラ通りが絶景ポイントで、正午以降は太陽の傾きで谷全体が影に覆われて見えづらくなるため、訪れるなら、谷の中がはっきりと見える早朝~午前中がオススメ。製粉所がライトアップされる夜も、昼間とは違った光景を堪能できます◎

自然豊かなムリーニの谷(ミルズの谷)の上流。

シダで覆われた製粉所。今ではソレントの観光名所のひとつとなっている。

緑に覆い隠されてしまいそうな製粉所の建物。もともとの姿はもはや想像できないほどだ。

SF映画やアニメに登場しそうな光景。

夏場になると草木が成長し、さらに緑一色になる。

まるで自然が建物を吸収しようとしているかのように、工場の屋根には植物のツルや枝が絡みついている。
DATA
◎アクセス:タッソ広場から徒歩で約5分。