廃墟となった街に暮らす、たったひとりの住民
アルゼンチン中部のブエノスアイレス州、首都ブエノスアイレスの南西約600キロにある、エペクエン湖畔の街ヴィラ・エペクエン。
1920年代初めに湖畔のリゾート地として開発されると、塩湖であるエペクエン湖の塩水に治癒の効果があるといううわさが広まって、塩水浴リゾート地として観光客が集まるようになりました。
そして、1960年代には年間2万5000人もの観光客が訪れていたというヴィラ・エペクエン。しかし、繁栄を極めていた1985年、8日間降り続いた雨が、その発展に終止符を打つこととなります。
11月、降り続いた雨によってエペクエン湖の水位が8メートル上昇すると堤防が決壊、その2週間後には路上の水位が1.8メートルにまでに達しました。
そして1991年、ついにヴィラ・エペクエンは深さ10メートルの水の底に沈んでしまったのです。当時約1500人ほどいたという住民たちは、もはや住むことができなくなった街を捨て去り、その後も再建されることはありませんでした。
ヴィラ・エペクエンが水没してしばらく経ったころ、気候の変化によって干ばつが訪れると、エクスペン湖の水位が下がりだしました。
2009年には水没していた街が再び現れるようになり、そして2013年には、エクスペン湖の塩で真っ白になった街の大部分が姿を現したのです。
もはや廃墟同然となってしまったヴィラ・エペクエンですが、現在は、街を25年間覆っていた水が引いた2009年に自宅に戻ったパブロ・ノヴァク(Pablo Novak、1930年生まれ)が、たったひとりの住民として暮らし続けています。

塩湖であるエペクエン湖。世界第2位の塩分濃度を持っており、姿を現したヴィラ・エペクエンの街も、その塩に覆われてしまっている。

かつてリゾート地だったことをしのばせる、湖畔に並んだパラソルや監視台。

水位は下がり、街の大部分はほぼ姿を現している。白く見える部分は塩で、電柱に付着した塩から、かつてそこまで水に沈んでいたことが分かる。

かつての墓地。嘆くような石像が今も象徴的に残されている。

湖の塩ですっかり錆びついてしまった、かつての食肉解体施設。建築家フランシスコ・サラモーネ(Francisco Salamone)によって設計されたモダンなデザインだった。

今もなお当時の生活用品などが散らばっている。

かつてのプールとスライダー。今ではプールと湖の境も分からなくっている。

湖に浸かり、塩で立ち枯れてしまっている木々。

まるで抽象画のような、幻想的な美しさを持ち合わせている。

大きな道路だったであろうことが想像できる、電住が立ち並ぶエリア。左手前には公園だったのか、ブランコの骨組みだけが残っている。

塩で真っ白になった切り株と、ビーチパラソル。
DATA
◎アクセス:ブエノスアイレスから車で約6時間。