第二次世界大戦下、都市防衛のために建てられた強固な塔
アウガルテンは、オーストリアの首都ウィーン北部、ドーナウ島レオポルトシュタット区の西北端に位置する、美しい公園。
しかしこの公園には、その美しく整備された景観とはあまりにも不釣り合いな、第二次世界大戦の遺構である巨大な高射砲塔が残されています。
「高射砲塔」とは、第二次世界大戦当時ナチス・ドイツの統治下に置かれていたオーストリアで、連合軍の空襲から戦略上重要な都市を防衛するために、ドイツ空軍が都市防衛設備として建設した鉄筋コンクリート製の高層防衛施設のことで、ウィーンのほか、ドイツのベルリンやハンブルクにも建設されました。
ウィーンには2基1組の高射砲塔が三角形を描くように6基配置されていたのですが、あまりにも頑丈な造りのため、戦後も解体されることなく放棄されたことから、今もなお廃墟として残されているんだとか。
高射砲塔の高さは30~40メートルにもなり、爆弾の直撃にも耐えられるよう、外壁は2.5~5メートルもの厚さがあるといいます。

のどかなアウガルテン公園に突然現れる、不釣り合いな高射砲塔「G塔」。高射砲塔は、高射砲の設置された「G塔」と呼ばれる砲戦塔と、レーダーや高射指揮装置を備え、それらが発砲による衝撃波の干渉を避けるよう数百メートル離した位置の「L塔」と呼ばれる指揮塔で構成され、2つの塔は通信線用トンネルで連結されていた。

アウガルテン高射砲塔の「L塔」。

あまりにも公園と高射砲塔が不釣り合いなため、CGではないかと見まごうほど(Creativan / Shutterstock.com)。

下を歩く人と比較すると、その巨大さがよく分かる。塔の構造にはさまざまな工夫がされており、屋上部には高射砲や対空機関砲が設置されていて、下層階は民間人用の避難場所となっている。また、市街戦の際には「要塞」として長期に渡ってろう城できるよう、発電機や貯水槽も設置されていた。

市民の憩いの場となっている、美しい公園の中に建つ(写真:dinkaspell / Shutterstock.com)。

秋の紅葉が美しいアウガルテン。公園の門からまっすぐ延びた歩道の先に、巨大な高射砲塔がそびえ立っている。

ところどころ砲弾を受けた痕跡が残されている。この多機能重武装の高射砲塔も、連合軍の圧倒的な数の爆撃機の前には大きな効果をあげることはできなかったという。

同じく、砲撃を受けたであろう痕跡。ウィーンを占領するために行われた「ウィーン攻勢」では、街の大部分が包囲され、攻撃を受けたが、この高射砲塔がソビエト軍の地上部隊と戦闘を行ったことで、進撃を遅延させたという。

ウィーンに残る高射砲塔のひとつである、シュティフツカゼルネ高射砲塔の「L塔」。現在は内部を水族館、外側をフリークライミング用の壁として利用しており、「G塔」は内部をオーストリア陸軍が使用しているという(Roy Harris / Shutterstock.com)。

ウィーンに残る高射砲塔のひとつ、アーレンベルク高射砲塔の壁に描かれた落書き。「G塔」は芸術作品用の倉庫として利用されており、「L塔」も現存はするが利用されていない(lucarista / Shutterstock.com)。
DATA
◎アクセス:ターボアシュトラーセ駅から徒歩で約5分。