ヴァニラ・ノブが支配人を務めさせていただいてます、架空映画館「テアトル・オネェ」。新旧・内外・ジャンルも問わず、オススメの映画を取り上げてご紹介させていただいてます!
今回の上映作品は、「恋するリベラーチェ」◎
「恋するリベラーチェ」のおすすめポイント
■ キッチュでキャンプを絵に描いた、悪趣味なピアニストのお話
■ エルビス・プレスリーや美川憲一にも影響を与えたステージ・パフォーマンス
■ 私生活のドロドロは、ゴシップガールたちには大ゴチソウ!
◎”ピアニストものにハズレなし”っていうけど……w
「リベラーチェ」というのは、1950年代から1980年代にかけて、全米のおハイソなオバサマたちの心をワシ掴みし、大活躍したピアニスト。この映画は、そんな彼の晩年から死までの10年を描いた作品。
古くはショパンを主人公にした「別れの曲」、キム・ノヴァクが本当に美しい「愛情物語」(主人公:エディ・デューチン)、ロマン・ポランスキー渾身の「戦場のピアニスト」(主人公:ウワディスワフ・シュピルマン)、ジェフリー・ラッシュ納得のアカデミー賞主演男優賞賞受賞作「シャイン」(主人公:デイヴィッド・ヘルフゴッド)、ジェイミー・フォックスのなりきりが見どころの「Ray/レイ」(主人公:レイ・チャールズ)などは、それぞれが歴史に爪痕を残すピアニストたちの波乱の人生を描いていて、”ピアニストものにハズレなし”と言われるほど(あ、アタシが言ってるんだけど……)。
でもって、「恋するリベラーチェ」なんだけど、同じピアニストとはいえ、これほどコンデンスミルク並みに濃厚な方はいないんじゃないんだろうか? というくらい、胸ヤケ必至の晩年を見せてくれるのよ。つくづく若い時から描かなくて良かったと思っちゃうほど……。
◎豪華で派手で悪趣味だけど、ハマっちゃう

ラスベガスの「マダム・タッソー館」に展示されている、リベラーチェのろう人形。派手なコスチュームプレイで大衆の人気を博し、「世界が恋したピアニスト」と呼ばれた。(Kobby Dagan / Shutterstock.com)。
アタシにとって、リベラーチェ(リベラーチとも言う)は忘れられないお方。初めてニューヨークへ行ったとき、今はなき「Kim’s Video&Music」というマニアックなビデオショップがあって、そこで発見したのが、銀色のラメのなか、豪華な衣装に身を包んで若作りした老人が満面の笑みをたたえるパッケージのVHSテープ。

当時購入したVHS(筆者撮影)。
すぐに”コレは何かあるな”と思い、迷わず購入。ホテルにあったビデオデッキで再生すると、とんでもない悪趣味な世界が繰り広げられてたの。
「バレンタイン・デー」をテーマにしたショウスタイルのテレビスペシャルでは、熱気球に乗ってたり、噴水がビュンビュン水を出しまくってたり、とっかえひっかえ衣装を見せびらかしたり、ラインストーン(本物のダイヤモンドだと思うんだけど)で装飾されたロールス・ロイスで登場したりと、成金を超えた怒涛のキッチュとキャンプであふれていたの!!
そんな演出のなか、クラシック音楽のスタイルで演奏されるポップミュージックの、これまたモンドなこと!
イッパツでトリコになってCDを購入したものの、正直、音だけでは物足りなかったのよね。”この人はビジュアルあっての人なんだなぁ……”って。
◎あまりにハマって、熟年ゲイであふれるミュージアムに

1979年にラスベガスのヒルトンホテルでリベラーチェのショーが上演された際の看板(claudio zaccherini / Shutterstock.com)。
それでも20代の若いゲイにとってはあまりにも衝撃的な人物だったので、色々と調べたりしてるうちに、ラスベガスに彼の博物館があるということを知り、”いつか行ってみたいなぁ”と思っていた数年後、仕事で訪れることに。
ラスベガスでは仕事に追われ、やっと最終日に自由な時間ができたから、タクシーを飛ばして念願の「リベラーチェ・ミュージアム」へ!
館内に入ると老人の団体がゆらゆらと案内されるまま歩き、熟年ゲイカップルたちが展示品をねっとりとした目つきで見てた。
「あぁ、やはりこの人はゲイが好きになる要素を持ってるんだなぁ……。”何かある”というアノ時の自分の直感は、間違いなかったんだわ!」と高揚。
しかもそれは展示品を見ていくにつれ、”確信”という皮膚にどんどん上書きされて、まるでおしろいを何層も塗り重ねているかのようだったわ◎
宝石をちりばめたキツネの毛皮や、「Liberace(リベラーチェ)」と刺繍され、ボタンにダイヤモンドがあしらわれたベルベット・スーツ、星条旗色のラインストーンのホットパンツなどなど、見るからにお金がかかって重たそうな衣装や、燭台がつけられた鏡張りのグランドピアノや、金ピカにカスタマイズされたリムジン、再現された寝室や書斎などなどを、これでもかと見せられているうちにしだいに目がチカチカし始め、何よりもお腹がいっぱいに……。

「リベラーチェ・ミュージアム」に展示されている、当時の衣装(Kobby Dagan / Shutterstock.com)。
リベラーチェが1952年に行った「ハリウッド・ボウル」(ハリウッドにある野外音楽堂)での演奏会で、黒のタキシードでかためたオーケストラと一緒の格好をしていては目立たない! ということで、純白の衣装を着て登場したのがココまでになったきっかけらしいけど、「もっと! もっと!」というマッチポンプ欲求は、際限なくとんでもない方向に行き、戻ることはなかなかできないのねぇ……と、しみじみ。
◎男くさい名優たちの怪演は必見!

主人公リベラーチェを演じるマイケル・ダグラス。
そんなリベラーチェの記憶を久しぶりに呼び起こしてくれたのが今作なんだけど、演じるのがなんとマイケル・ダグラス! 「危険な情事」や「ロマンシングストーン/秘宝の谷」なんて、マッチョな映画ばかりに出てた彼が、それはそれはエレガントかつ自己愛にあふれた魔女のごとくの大熱演。
そして彼に見初められた美青年ソーソン役が、マット・デイモン。アラン・ドロン主演の名作「太陽がいっぱい」のリメイク版「リプリー」でもゲイの匂いをプンスカ出してた彼が、今回は直球ゲイの役をムキムキのいい身体を存分に見せながら演じてます!

リベラーチェ役のマイケル・ダグラスと、ソーソン役のマット・デイモン。
金持ちのジイさんが若い子連れてゲイバーで飲んでる光景はよく見かけるけれど、リベラーチェはそのステージが違うわぁ……。まさに、金に飽かして花魁(おいらん)を水揚げしたお大尽みたいな感じ。
それが下品このうえなく、素晴らしいばかりのエゴ(ある意味、ホメてます)!
その行き過ぎたエゴは、自分の若返りの顔いじりのついでにソーソンにも整形を受けさせると。しかも、「自分の顔に生き写し」という条件付き(ちなみにその整形外科医を演じるのはロブ・ロウが怪演)!!
ソーソンは彼の愛を信じて整形を受け入れるものの、やがてジイさんから捨てられて……。さらにそんなジイさんも因果応報というのか、ある病に侵され、67歳で死を迎えることに……。

カリフォルニア州パームスプリングにある、リベラーチェが暮らしていた家。今では観光スポットとなっている(GlobalTravelPro / Shutterstock.com)。
◎バレてないとでも思ってるのかな?
エンターテイナーとしては、品行方正でサービス精神あふれるステージを見せていたリベラーチェも、私生活ではスキャンダルだらけ。しかも、”じつはゲイ”ってこと、最後の最後まで認めなかったのよ!!
まさに究極の自己愛とエゴ。きっちり墓場まで黙って持ってっちゃった。バレバレだったのに……。
MOVIE DATA
「恋するリベラーチェ(Behind the Candelabra)」
■ 監督 …… スティーブン・ソダーバーグ
■ 出演 …… マイケル・ダグラス、マット・デイモン、ロブ・ロウ ほか
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