「工業と自然の共存を象徴するもの」
オーストラリア・シドニー東部に位置するホームブッシュ湾。その奥に、まるで小さな森のようになってしまった難破船、「エスエス・エアフィールド号(SS Aryfield)」が浮かんでいます。
この「エスエス・エアフィールド号」は、1911年にイギリスで造られ、石炭の輸送船として、オーストラリアのシドニーとイギリス・イングランドのニューカッスルの間を運航していました。
その後連邦国の所有となると、第二次世界大戦時には太平洋地域に駐留するアメリカ軍に物資を輸送するための船として使われるも、1950年からはふたたび石炭の輸送船として使われていました。
しかし1972年、その輸送中に座礁すると、当時ゴミや貨物船、有毒な産業廃棄物の投棄場所となっていたホームブッシュ湾に送られて解体されると、その後は放置されてしまうことになったのです。
すると、そのうちに湾の周辺に自生していたマングローブがどういうわけか船上にも生い茂るようになり、現在の、まるで小さな森を乗せているような姿になったといいます。
そのシンボリックな姿から、世界的に知られるようになった「エスエス・エアフィールド号」。2008年には、この船を「工業と自然の共存を象徴するもの」として後世に残すため、修復作業が行われました。

シドニーの近代的な街並みを背景にして浮かぶ、「エスエス・エアフィールド号」。ハスラムズ川の河口付近に位置し、まさに森を乗せて浮かんでいるように見える。

上空から見た「エスエス・エアフィールド号」。船体はボロボロになっていて、今にも沈んでしまいそうだ。(Steph Moroni / Shutterstock.com)

長さ約80メートル、重量1140トンにもなる巨大な「エスエス・エアフィールド号」。

サイドから見た「エスエス・エアフィールド号」。かつてこの湾にはいく つもの廃船が放棄されており、「船の墓場」のような状態だったという。

特に夕暮れ、真っ赤に染まるホームブッシュ湾に浮かぶ「エスエス・エアフィールド号」の姿は、特筆ものの美しさ。

「エスエス・エアフィールド号」以外にも、多くの船が廃棄されているホームブッシュ湾では、ほかにも多くの廃船が取り残されている。この船は「エスエス・ヒロイック(SS Heroic )号」。

船舶や水上構造物を押したり引いたりするためのタグボート(曳舟)として活躍した、「エスエス・ヒロイック(SS Heroic )号」。

同じくホームブッシュ湾に廃棄されている船のひとつである、「HMASカランギ」号にも、マングローブが生い茂っている。第二次世界大戦中には、日本軍からの攻撃に備えるための防衛線としても使用された。
DATA
◎アクセス:シドニーから車で約35分。