「麻の葉」、「七宝(しっぽう)」、「籠目(かごめ)」、「千鳥」……。
いつだったか、どこかで聞いたことのあるこれらの名前は、私たち日本人になじみの深いもの。日本に古くからある伝統模様の名前です。ひとことで「模様」といっても、その背景にある歴史や意味は奥深く、縁起もさまざま。
そんな日本の伝統模様のなかから、今回は「亀甲(きっこう)」をご紹介します。
「亀甲(きっこう)」模様の由来と縁起

亀甲模様。
文字通り、六角形の亀の甲羅模様が、「亀甲模様」の呼び名の由来。亀は長寿のシンボルで、日本では鶴亀セットで縁起の良さを表します。
さらに亀縁起の由来を突き詰めると、中国の「瑞獣(ずいじゅう)」である、「四神(ししん)」に行き着きます。
「瑞獣」とは、古代中国でこの世の動物達の長だと考えられた動物のことで、吉兆として姿を現すとされる、何らかの特異な特徴を持つとされています。
そして「四神」とは、中国の神話において、天の四方の方角をつかさどる霊獣のことで、「青龍(せいりゅう)」、「朱雀(すざく)」、「白虎(びゃっこ)」、「玄武(げんぶ)」の4つ。最後の「玄武」が、亀の姿をした神様なのです。

「四神」をイメージしたイラスト。右から時計回りに「玄武」、「白虎」、「青龍」、「朱雀」。
中国には、この「玄武」が世界の土台になっているという神話もありますし、亀の甲羅を使って吉凶を占った「亀甲占い」なんていうのもあるしで、亀がいかに重要な扱いを受けていたかが分かります。
しかし、亀甲模様の亀の縁起からくる意味付けはまた異なり、幾何学的な美しい意匠として発生したと思われます。
日本では、古墳時代の遺物に亀甲模様が見られます。その後、平安時代に流行し、衣装や調度品に多く使用されました。
英語で言うと、「ヘキサゴン(Hexagon)」
亀甲模様は「六角形」。六角形を英語で言えば、「ヘキサゴン(Hexagon)」です。
六角形は安定した形で、亀の甲羅をはじめ、雪の結晶、ハチの巣、柱状節理など……自然界にも多く見られます。いかにも人工的に見え、自然のものとは思えませんが、とても美しい!
特にハチの巣の「ハニカム構造」は、その安定力と強度から、人間界においてもさまざまな技術に応用されています。

ハチの巣の「ハニカム構造」。段ボールなどもこの構造が採用されている。

亀の甲羅。
また、六角形の内側に描くことができる「六芒星(ヘキサグラム)」は、「ダビデの星」と呼ばれるなど、呪術的なパワーがあると言われています。

「六芒星(ヘキサグラム)」。
亀甲模様のバリエーション
その六角形が連なる「ハニカム構造」ですが、文様の世界では「亀甲つなぎ」と呼ばれます。永遠につながれていく様子も、縁起のいいものとされています。

「亀甲つなぎ」。
亀甲の中に、花などの紋様や文字が入ったデザインも数多くあり、家紋になっている亀甲もよく見られます。
なかでも有名なのは、出雲大社の紋である、「二重亀甲に剣花菱(にじゅうきっこうにけんはなびし)」。出雲は京都の北にあり、また玄武は北を守る神なので、出雲系の神社は亀甲紋となっています。

出雲大社の紋、「二重亀甲に剣花菱」。

「梅亀甲」。
また、3つの亀甲を「人」の字のように組み合わせたのが、「毘沙門亀甲(びしゃもんきっこう)」。毘沙門天の鎧(よろい)に使われたことが、名前の由来です。

「毘沙門亀甲」。
おまけの亀甲
亀甲、きっこう、キッコウ、キッコー……。どこかで聞いたこと、ありませんか?
日本の食卓にはたいていある、あの調味料。そう、醤油! そして醤油といえば、「キッコーマン」!

キッコーマンの卓上醤油。亀甲紋がロゴに使われている。(PackshotCreator photo studio)
キッコーマンの前身は、1917年設立の「野田醤油」。設立者が千葉県香取市にある香取神宮の氏子だったため、香取神宮の山号の「亀甲」にあやかったんだそうです。ちなみに、キッコーマンの「マン」は、「亀は萬年」だから……という説があります◎