さて、ゲイの琴線に触れまくる、オススメの映画を取り上げてご紹介させていただく架空映画館、「テアトル・オネェ」。支配人を務めます、ヴァニラ・ノブです。
今週は、あのディズニーがしかけたセルフパロディ自虐映画として話題になった、「魔法にかけられて」をどうぞ◎
◎「魔法にかけられて」のおすすめポイント
■ これまでのディズニークラシックを自虐!
■ 「きらびやかさ」と「毒」の、見事な配合
■ 観終われば分かる、魔法のすごさ
◎気になるあらすじは……?
冒頭から、ディズニークラシックのプリンセス系アニメあるあるな「Once Upon a Time……(ワンス・アポン・ア・タイム/むかしむかしあるところに)」で、本のページが開かれるシーンから始まる本作。
森の中に住んで、いつか理想の男性が現れるのを待ちわびるお姫様・ジゼル(エイミー・アダムス)と、これまた森の中でジゼルの歌声に導かれ、これぞ理想の伴侶と探し周り、ついに見つける王子・エドワード(ジェームズ・マースデン)。
そんな2人がアッという間に恋に落ち、アッという間に結婚を決め、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。めでたし、めでたし! という、”これぞディズニーのおとぎ話でございます”のテンプレートみたいなアニメーションが繰り広げられる前章。
あらかじめ情報を知らない人からすると、「……アレ?」と既視感を覚えてしまうアニメーション部分だけど、”めでたし、めでたし”となる前に、女王の座に執着するエドワード王子の継母で、この作品のヴィラン(悪役)となるナリッサ(スーザン・サランドン)が登場。
結婚式前のジゼルを言葉巧みに誘ったナリッサが、「いつまでも幸せに……なんてことが、どこにもない世界へお行き〜」と、彼女を現実(実写)の世界へ送り込むところから最高の展開が……。
おとぎの世界から現実の世界であるニューヨークにやってきたジゼルが、ロバート(パトリック・デンプシー)と彼の娘モーガンとのひょんな出会いによって、さまざまなことが起こるの。
◎ディズニー渾身のセルフパロディじゃないかしら?

英語版のパッケージは、毒っ気も感じられる装い。
ちなみに、ロバートは妻に去られたシングルファザーで、一応恋人はいるものの、結婚の怖さに慎重にならざるを得ない超現実派。かたやジゼルは、現実世界にいても”早くエドワード王子が迎えにきてくれないかしら?”と、あくまでも無垢で純粋でマイペース。
その対比は、見事に「ファンタジー VS リアル」。さらに、「夢は願えば叶う VS 夢なんてしょせんは絵空事」という構図になっていて、“ディズニーがこんな自虐的なことやっちゃっていいの!?︎”って、ちょっと心配しちゃうほど。
部屋を掃除する悪趣味満点なシーンや、劇中で唐突に歌うことへの挑戦など、これまでディズニーが描いてきたアニメーションへのオマージュやパロディがたっぷり!
とはいえ、一見そういったシーンを茶化したり否定したりしながらも、観ているうちに、これまでディズニーが描いてきた夢や希望という魔法に、結局は現実側がかけられてるってことが分かるのね……。
このカタルシスは、観終わると痛烈に感じるハズ。
◎見事に演じきったキャストの素晴らしさ!

主演のエイミー・アダムス。(Andrea Raffin / Shutterstock.com)
この作品を一級に昇華させているのは、脚本はもちろんだけど、キャストの素晴らしさもそのひとつ。なかでも必見なのが、今作で一気に注目されることとなった、主演のエイミー・アダムスの「陽」の演技!
そして、2007年のミュージカル映画「ヘアスプレー」でも美声を聞かせたエドワード王子役のジェームズ・マースデン(アタシ、この人タイプなの!)、ロバートの彼女役を演じたイディナ・メンゼルは「RENT/レント」や「ウィキッド」といった有名ミュージカルの舞台や「アナと雪の女王」のエルサ役でおなじみ、ヴィラン役のスーザン・サランドンは「ロッキー・ホラー・ショー」でヒロイン・ジャネットを演じているし、ナレーションを担当するのは「サウンド・オブ・ミュージック」や「ビクター/ビクトリア」などの名女優ジュリー・アンドリュースと、作り手側が“ちゃんとわかってる”キャストを揃えてるのがいいのよねぇ……(ほかにもディズニー好きにはたまらない人たちが、たくさん出てるの)。

プロ並みの歌唱力を誇るジェームズ・マースデン。(DFree / Shutterstock.com)

イディナ・メンゼル。「アナと雪の女王」の劇中歌「レット・イット・ゴー」では、アカデミー賞歌曲賞を受賞した。(JStone / Shutterstock.com)

大女優のスーザン・サランドン。(Sam Aronov / Shutterstock.com)

レーシングドライバーでもある、パトリック・デンプシー。(Denis Makarenko / Shutterstock.com)
さらに言うと、「リトル・マーメイド」や「美女と野獣」、「アラジン」、「ポカホンタス」、「ノートルダムの鐘」など、”ディズニーアニメといえばこの人!”な作曲家、アラン・メンケンの曲も素晴らしいんだけど、そのうえ自分自身が作った過去の作品を完全にイジってて、その遊び心がこれまたイイのよね◎
◎最後まで茶目っ気も毒っ気もたっぷり

ニューヨークのセントラル・パークにある「ベセスダ・テラス」。ジゼルと人々が歌って躍るシーンが撮影された。
この映画が好きすぎて、ロケ地となったニューヨークのセントラル・パークやタイムズスクエアへ行き、女装して再現写真を撮影したっていうドラァグクイーンを知ってるんだけど、彼が言うには、”ドラァグクイーンが好きなものが、この作品に全部詰まってる”って力説してたの。
そして、”きらびやかさと毒が絶妙なバランスで共存している”とも。それはアタシもまったく同感だったわ……。今改めて観ると、その毒でさえも魔法にかけられてるの。
そういえば、この作品の続編が作られるとか言ってたけど、どうなったのかしら? ちなみに続編のタイトルは、「魔法がさめて」……。
タイトルだけですでにヤラレます◎
MOVIE DATA
「魔法にかけられて(Enchanted)」
■ 監督 …… ケヴィン・リマ
■ 出演 …… エイミー・アダムス、パトリック・デンプシー、ジェームズ・マースデン、スーザン・サランドン、イディナ・メンゼル ほか

魔法にかけられて (字幕版)
Buy for Amazon