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【世界の官能名画美術館 #17】アレクサンドル・カバネルの「ヴィーナスの誕生」

西洋の美の歴史は、つねに性愛とかかわるものでした。あまたの巨匠たちが性を想起させ、異性を誘惑する魅惑の肉体を備えたヌード画を描き、究極の美を追求してきたのです。

このシリーズでは、世界に名だたる西洋絵画の巨匠たちと、彼らが究極の美を追い求めて描いた名画をご紹介していきます◎

誰もが知る名画には、いったいどんなエロティシズムが隠されているのでしょうか?

第17回目は、”フランス・アカデミーの巨匠””新古典主義の巨匠”と呼ばれるフランスの画家、アレクサンドル・カバネルが描いた「ヴィーナスの誕生」をひも解いてみましょう。

新古典主義の巨匠が描く、ヌード画の極致

【世界の官能名画美術館 #17】アレクサンドル・カバネルの「ヴィーナスの誕生」01

アレクサンドル・カバネル「ヴィーナスの誕生」。1863年、キャンバス・油彩、130×225㎝、パリ、オルセー博物館蔵。

アレクサンドル・カバネルといえば、新古典主義の画家でフランス・アカデミーの頂点に君臨した画家としても知られています。ありのままの現実を描こうとするリアリズムや印象派といった潮流が登場しつつあった画壇において、新古典主義を掲げ、アカデミズム絵画を守り続けた重鎮です。

いわば保守派と目されるカバネルが描いたヴィーナスは、神話を題材にした歴史画の体裁を保ちながらも、同時にかなり大胆な構図で描かれているのが特徴。

海の泡から生まれたヴィーナスの、その誕生の瞬間を描いた絵画作品は、伝統的にはボッティチェッリのように貝殻の上や海上で立位の姿で描かれることがしばしばですが、本作は「横たわるヴィーナス」として描かれています。

女神が横たわる海面は、粘着性の液体を思わせるような描写で、あたかもウォーターベッドのような印象を与えます。現実には起こりえるはずもない、この海面での横臥は、そのリアルな描写と相まって、どこかSF的な雰囲気を醸し出しています。

物憂げに頭の上に置かれた手とその表情に緊張感は見られず、まるで寝起きのような印象です。しかし、注目すべきは、足の指の描写。微妙にそり返った指が、きわめてなまめかしいのです。

このことが、「ヴィーナスの誕生」という主題とは裏腹に、本作が”ひとりの女性のエクスタシーを描いたものではないか”とささやかれるゆえんとなっています。

【世界の官能名画美術館 #17】アレクサンドル・カバネルの「ヴィーナスの誕生」02

物憂げにこちらに視線を投げかけるヴィーナス。両手を頭の上に置くことで、肩からバストにかけてのラインが美しく、なまめかしい。そのかすかに開けられた流し目が、エロティシズムを醸し出している。

【世界の官能名画美術館 #17】アレクサンドル・カバネルの「ヴィーナスの誕生」03

海面に横たわるヴィーナスの足の指は微妙に反り返っている。あたかも性的な絶頂を体験する女性のしぐさのようだ。神話の題材を借りて、性的なエクスタシーを表現した本作は、アカデミズム絵画の作品のなかでも、きわめてスキャンダラスな1枚である。

【世界の官能名画美術館 #17】アレクサンドル・カバネルの「ヴィーナスの誕生」04

カバネルの「ヴィーナスの誕生」を所蔵するオルセー美術館では、以前までオーギュスト・クレサンジュの彫刻作品「蛇に噛まれた女」と一緒に展示されていた。クレサンジュの彫刻もカバネルの横たわるヴィーナスを思わせ、この彫刻は、高級娼婦の身体から型取りして作られた作品とされる。

フランス・アカデミーの巨匠、アレクサンドル・カバネル(1823〜1889年)

【世界の官能名画美術館 #17】アレクサンドル・カバネルの「ヴィーナスの誕生」05

アレクサンドル・カバネル「自画像」。1852年、ファーブル美術館蔵。

フランスの新古典主義の画家にして、フランス・アカデミーの重鎮として活躍したアレクサンドル・カバネルは、1823年、パリに生まれました。

17歳でパリの国立美術学校に入学し、アカデミズムの絵画を学んだカバネル。1841年には早くもサロンに出品し、その4年後にはローマ賞を受賞。このローマ賞は西洋絵画の源流であるイタリアへの遊学を約束するものでした。

帰国後、アカデミー会員に選出されると、順風満帆の画家人生を送ることに。

また、アカデミー会員選出と時を同じくして、国立美術学校の教授に就任。市庁舎の装飾など公的な注文を受けて、多くの名誉に輝きました。

しかし、同時代の新潮流である近代リアリズムや印象派の画家たちには否定的で、カバネルとアカデミーの画家だったウィリアム・アドルフ・ブグローが、エドゥアール・マネらの絵を拒否してサロンに展示させなかったことから、1863年の落選展騒動を招くこととなりました。

その後になって印象派が流行し、モダニズムが開花すると、カバネルのような典型的なアカデミズム絵画の作風はしだいに廃れていき、現在でも詳細な研究が行われていないのが実情です。

そういった背景もあって、今日ではカバネルの多くの代表作品が行方不明となってしまっています。

出典:『愛と美の官能名画』(メディアソフト)

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