毎度レインボーな視点で、ゲイの琴線を刺激する映画を取り上げる架空映画館「テアトル・オネェ」。支配人のヴァニラ・ノブです。
2019年の1本目は、この春、三浦春馬さん主演でミュージカル舞台が再演されることでも話題となっている、2005年に公開された映画「キンキー・ブーツ」から行ってみましょう!
◎「キンキー・ブーツ」のおすすめポイント
■ ドラァグクイーン用のシューズを製作! じつは本当にあった話の映画化!
■ 「偏見を捨てることが大事」ということを教えてくれる物語
■ この春、日本でもミュージカル版が三浦春馬主演で再演!
◎気になるあらすじは……?
三浦春馬さん主演のミュージカル舞台が4月に再演されるので、タイトルだけはご存知の方もいらっしゃるかと思うんだけど、じつはこの映画をベースにミュージカル化されたものなの(楽曲を担当したのはゲイフレンドリーなシンディ・ローパー)。しかも、映画自体も実話を基にしたもの。
映画の舞台となるのは、イギリス・ロンドンから100キロほど離れた場所にある田舎町、ノーサンプトンにある老舗の紳士靴メーカー「プライス社」。
主人公チャーリーはそこの跡取り息子だったものの、プレッシャーに耐えられずに違う仕事に就き、地元を離れてロンドンで恋人と結婚し、移住することを計画していたんだけど、なんと社長であるお父さんが急死。
結局、チャーリーは会社を継ぐことになるんだけど、ひょんなことから会社が危機的状況だったことを知って驚愕。
在庫処分も兼ねてロンドンの友人のもとを訪ねた帰り、酔っ払いに絡まれている女性を助けようとしたところ、誤って女性から靴のパンチを受けて失神。
目が覚めると、そこは先ほどの女性が働くショーパブの楽屋。そしてその女性は、お店のNo.1ドラァグクイーン、ローラだったの。
彼女の素晴らしいショウを見たチャーリー。さらに、「女性用のヒールを無理やり履いてるから、足が大変!」という話を聞いて、おぼろげに“ある事”を思い立つの。
地元に戻ったチャーリーは、社の財政難から長年働いてくれた従業員たちに無念のリストラを敢行。そのとき女性社員のローレンから、「“ニッチ市場”を目指すべき!」と去り際に言われたことをきっかけに、ロンドンで思った“ある事”を彼女に相談し、顧問として再雇用することに。
さらにローラにも改めて声をかけ、「ドラァグクイーン用のブーツを作る」と約束したチャーリーは、自分なりに試行錯誤しながら作ってみたところ、デザインよりも機能性を重視したばっかりに、長靴のようなスタイルの靴ができあがってしまうの!
当然、それを見たローラは、あまりのダサさに落胆&激怒。「セックスはヒールにありよ!」という深すぎる言葉を残して、諦めの境地で帰ろうとしたとき、チャーリーは彼女をコンサルタント兼デザイナーとして迎えることに。
……が、問題も発生。工場で働くドンをはじめとする従業員たちは、ローラの存在と特殊なコンセプトの靴製作を快く思わないうえに、恋人との関係も徐々にギクシャクし始め……。
とはいえ会社の危機はそこまで迫っているし、とにかく社の存続をかけて、ドラァグクイーン用の靴をイタリア・ミラノで開催される見本市に出展することを決意するチャーリー。しかも、ローラたちドラァグクイーンに登場してもらってのショウもやることに!
けれど、いよいよミラノへ発つ前夜、恋人との関係に決定的な出来事が起こってしまう! さらにそのショックから、チャーリーはローラに対し、勢いでセクシャリティに関する思いがけないことを言ってしまうの……。
翌日、傷心と後悔のままミラノへ行くチャーリーたち。当然、そこにローラの姿はなく……。
◎この作品が伝えたかったこと

ミュージカル版の看板を掲げるブロードウェイの劇場。トニー賞でも最優秀ミュージカルに輝いた。(EQRoy / Shutterstock.com)
この映画の後、2013年に製作されたブロードウェイのミュージカル版では、「トーチソング・トリロジー」や「ラ・カージュ・オ・フォール」など、ゲイ関係の作品を数多く手がけている俳優でもあり、前回の「ヘアスプレー」でもご紹介したハーヴェイ・ファイアスタインが映画版をうまく料理し、チャーリーとローラ、それぞれの父との関係をもう少し濃厚に描いたりして手慣れた作品になってるわ。
さらにミラノでのショウもアクロバティックで、小さなベルトコンベアを使ったりと、ミュージカルならではの華やかなものになっているんだけど、映画版・ミュージカル版両方に共通するのは、「偏見を捨てて」ということ。
見た目や印象だけで判断や思い込みをすることほど、残念で怖いことはない。
その偏見を捨てれば新しい見方や解釈ができるってことが、この作品を観れば分かるはず! ……と、言い切るのは傲慢かもだけど、少なからず「“歩み寄れること”は可能だ!」って、知ることはできるはずよ◎
◎実力派俳優が固めるスキのないキャスト!

一目見て演技派だと分かる、ジョエル・エドガートン。(Krista Kennell / Shutterstock.com)
そんな思いを知らしめてくれるのが、今作でチャーリーを演じているジョエル・エドガートン。
「スターウォーズ」シリーズや「華麗なるギャッツビー」など、一見泣き顔でか弱く見えるけど、じつは目の奥は笑っていないという独特フェイスでいい人・悪い人を巧みに演じ、さらに幸せだった夫婦が夫のかつての同級生と再会したことから人生が狂っていく「ザ・ギフト」(必見!)や、2019年4月に公開が予定されている「ある少年の告白」(ゲイの男子が両親と衝突し、同性愛者の転換プログラムに参加させられるという、アタシたちにはかなりこたえる話)を監督し、数々の賞にノミネート&受賞しているなど、その実力は折り紙付きの人!

この方がヒールを履くなんて!(Twocoms / Shutterstock.com)
そしてドラァグクイーンのローラとして、圧倒的な存在感で強さ、弱さ、慈愛を見せてくれたのが、キウェテル・イジョフォー。
「それでも夜は明ける」では、アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた、こちらも実力派。そんな彼が、ガタイのいい体を今にも折れそうな細いヒールにバランスよく乗せて、いかにも”長年履きこんでいますから!”という歩みで闊歩する姿に、女性たちもきっと共感すると思うわぁ……。だって、本当にハイヒールって大変ですもんね!
◎みんな共感しちゃうワケ

ブロードウェイミュージカルのオリジナルキャスト、ビリー・ポーター とアンディ・ケルソが、ブーツを履いてパフォーマンスする様子。(lev radin / Shutterstock.com)
かくいうアタシも昔、ゲイバーのママたちがドラァグクイーンに扮してショウを繰り広げる、素晴らしい地獄のようなイベントでMCをさせていただいたことがあるんですが、そのときのアタシはタキシードにピンヒールというカッコ。
アメリカに行ったときにしっかり試し履きして購入した、サイズ27センチ、高さ約10センチのピンヒールを意気揚々と履いたんですけど、立てることは立てるものの歩くときの重心をどこに置きながらどう歩けばいいのかがわからず、体が安定せずフラフラしっぱなし。
しかもしばらく立って話してるだけで、「あれ? アタシ一瞬で外反母趾になった?」と錯覚するほど親指の部分が痛くなるし、しばらくして痛さも麻痺した頃に調子に乗って歩き回ってると、舞台の隙間にプスっとヒールが刺さってコケそうになるしで、「もう二度とピンヒールなんて履きたいくない!」なんて後悔しながら、「なぜ女性はこんな靴を履いているの?」「なんでドラァグクイーンはこんなの履いてショウができるの!?︎」と、改めて驚いて尊敬したわぁ……。
だからこそ、ミラノでのクライマックスシーンでは、チャーリーの気持ちもわかるし、ローラのスゴさもわかるの。
とにかくこの映画、一度でもハイヒールを履いたことのある方なら、チャーリー率いるシューズメーカーに心から拍手を送りたくなるわね!
履いたことがないっていう方は、一度履いてみるといいかも。靴の話だけに、“歩み寄れること”請け合いかもね◎
MOVIE DATA
「キンキーブーツ(Kinky Boots)」
■ 監督 …… ジュリアン・ジャロルド
■ 出演 …… ジョエル・エドガートン、キウェテル・イジョフォー、サラ=ジェーン・ボッツ ほか