ヴァニラ・ノブが支配人を務めさせていただいてます架空映画館「テアトル・オネェ」。
新旧・内外・ジャンルも問わず、オススメの映画をゲイ目線で取り上げてご紹介させていただいてますが、今回の上映作品は、今回上映するのは4月19日(金)から公開される「ある少年の告白」。
◎「ある少年の告白」のおすすめポイント
■ガラルド・コンリーが実際に矯正施設での体験を綴った物語の映画化
■母の愛は強しを感じる映画よ
■ラッセル・クロウ、ニコール・キッドマンらオーストラリア出身実力派俳優の共演でもあるの
◎気になるあらすじは……?
アメリカの某田舎町に暮らす大学生、ジャレッド。
地元の実業家で牧師でもある父と、美容師で美しい母との慎ましやかで充実した暮らしの中、あるきっかけから自分が同性愛者だと気づく。さらに自宅に大学のカウンセラーと名乗る人物から「おたくの息子さんはゲイですよ」と、何をしてくれるのよ! というアウティングの電話が・・・。
両親は事態を飲み込めず、息子に問いただすと「自分は男性に惹かれる」と告白されるのね。特に聖書原理主義者(聖書を字義通りに信じる福音派のキリスト教徒)の父親は、同性愛なんてもってのほか! ということで仲間と相談の結果、同性愛を“治す”という矯正セラピーへ参加させることに。母親は息子に対し施設に入れることに不安に駆られるも、父親の提案に望みを託し、同意し、ジャレッドの送迎をすることに。
その施設はチーフ・セラピストのヴィクター・サイクスたちによって運営されていて、すでにたくさんの若者たちが入所してるの。
サイクスはみんなに言うの「同性愛が生まれつきというのは嘘だ。それは選んだものだ」と。
それに女性は必ずブラジャーをしなくちゃダメだとか、男同士は肉体の接触があっていけない(握手すら!)、スタッフの同伴なしにトイレに行っちゃダメなど、本人の意思とは別に厳しいルールを強いられてるの。しかも家族にも施設での内容は一切口外してはいけないと言われ、最初は罪の意識に苛まれていたジャレッドも、徐々に疑問を抱くように。そしてある事件が起こって彼は遂に行動を起こす、って話。
◎実際にあったお話がモデルなの
このお話、実際に矯正治療を受けたカラルド・コンリーが書いた「消された少年」を映画化しているんだけど、大昔、こういう施設があったし、実は今もあるの。
昔はそれこそロボトミー治療のようなものであったり、人工知能の父と称されて、ゲイだったアラン・チューイング(ベネディクト・カンパーバッジ主演の映画「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」に詳しいわ)に施された化学的去勢(強制ホルモンの接種)などが行われたりしていたんだけど、こちらは宗教的動機からの治療法。だけど、専門家からは科学的に効果の証拠が見られないものとして批判をされているの。しかもこの治療法が結果、鬱や不安、深いトラウマをもたらすと言われ、実際、2014年にはオハイオ州に住む17歳のトランスジェンダーが自殺した事件が…。これがきっかけとなって当時の大統領、オバマが矯正治療を止めるよう声明を発表したの。害しかないこの行為から、性的マイノリティの未成年者を守るための法が成立したんだけど、ワシントンD.C.と、ほか14の州のみにまだ留まっているわ。
カラルド・コンリーも治療の日々から14年経った今もトラウマとしてしっかり残っているそうだけど、そういう子たちがこれ以上増えないために国内外の矯正施設の廃止を求めるため活動しているの。
◎目に見えるものがすべてじゃないと思うわ
今でこそ性的マイノリティに対して、日本は徐々にだけど寛大にはなってきているけれど、まだまだ都会に限ってというのは感じるわ。
たまに家族や親戚が集まれば「結婚はまだ?」「早く結婚して一人前にならないと」「お前もしかしてこっち?(と手を頬に当てる仕草)」などと言った発言は数知れず。言う本人にこれっぽっちも悪気はないだけに(多少はあるかもだけど)、どれだけグッサリ傷ついている性的マイノリティが多いことか。
年齢を重ねれば、それに対して言い返す強さを持ち合わせるようになったり、防御を張る器用さも会得したりするんだけど、未成年の子たちは本当に辛いと思う。
アタシは昔、妹にあることでゲイバレしたんだけど、それを彼女は母親に報告した時に、「あぁ良かった! ロリコンじゃなくて、あの子はあの子で自分の人生全うすればいい」って言われたそうで、母親を見直したんだって(アタシがゲイだって母親に言う妹はどうかと思うけど!)。年数を経て、そのことを妹から聞いた時、母親の愛と理解に対して、思わず泣いちゃった。でも、父親はアタシがゲイだと知らないまま(知ってたかもしれないけど)、亡くなってしまったから、今となってはどっちが良かったのか、正解はわからない。
◎自分が知らないことだって、もうひとつの現実だってわかると思う
本作でも自分がゲイであると苦悩するジャレッドと施設の仲間たち、そしてそんな子どもがゲイであることをどうしても宗教的に理解できず、受け入れられない両親たちのエゴ。宗教を信じるがゆえに神は必ず矯正できるということを疑うことをしない施設の人たちの怖さが生々しいし、見ていてつらくなる。でも、母親の存在に救われる。
この母親を演じているのが最近では「アクアマン」でも母役を演じている、ニコール・キッドマン。彼女の見せ場はきっと涙するはず。
そして苦悩する父親役には、ラッセル・クロウ! 彼がまたうまいの!

苦悩する父親を演じたラッセル・クロウ(lev radin / Shutterstock.com)
主人公のジャレッドには、ルーカス・ヘッジズ。施設の仲間を、映画監督としても「マイ・マザー」や「Mommy/マミー」でカンヌ国際映画祭審査員特別賞を受賞した若き天才グサヴィエ・ドランと、ミュージシャンのトロイ・シヴァンが演じ、二人とも実際にゲイだから説得力があったわ。監督とチーフ・セラピストのサイクスを演じたのは、初監督作「ザ・ギフト」が素晴らしかった、ジョエル・エドガートン。今作でもセンシティブな話を真摯にとても丁寧に撮っていたわ。

左からルーカス・ヘッジズ、ジョエル・エドガートン監督、トロイ・シヴァン、ニコールキッドマン(Joe Seer / Shutterstock.com)
決して、楽しい映画ではないけれど、日本でも性的マイノリティとして悩み苦しんでいる子たちはたくさんいるわ。そんな子たちが暮らしやすい世の中になることを考える上で、目を背けちゃいけない映画だと思うの。
MOVIE DATA
「ある少年の告白」(原題/Boy Erased)
■ 監督 …… ジョエル・エドガートン
■ 出演 …… ルーカス・ヘッジズ、ニコール・キッドマン、ジョエル・エドガートン、ラッセル・クロウ、フリー ほか
■ 公式HP …… http://www.boy-erased.jp/