元号が変わることで平成生まれのオネエたちの動揺を感じたいヴァニラ・ノブが支配人を務めさせていただいてます架空映画館「テアトル・オネェ」。新旧・内外・ジャンルも問わず、オススメの映画をゲイ目線で取り上げてご紹介させていただいてます。
今回の上映作品は「ディヴァイン・ディーバ」。
◎「ディヴァイン・ディーバ」のおすすめポイント
■1960年代、ブラジルで活躍したドラァグクイーンたち
■8人のレジェンドたちの今の姿が強力!
■ゲイが老いていくことの見本でもあるの
◎老いって、怖いわよねえ……
新元号がまもなく発表され、30年続いた平成もそろそろ終わってしまうとなると、昭和生まれなんて、これまでの感覚でいえば明治、大正生まれ的な存在になってしまうのねぇと、パソコンのキーボードをタイプしている自分の手の甲がふと目に入り、その抗えないリアルな老いに今、ジワリと汗が滲み出て恐怖を感じてるわ。だからこれから書く文章もついネガティブになっちゃうかも(ウソ)。
とは言え、ゲイにとって女性同様、老いることには人一倍敏感。シミひとつ、シワ1ライン、抜け毛一本見つけては上へ下へ右へ左への大騒ぎして、すぐ韓国行ってきまーす! なんてメンテナンスへの旅へという方も多々いらっしゃるぐらいですから。
そんなアタシも含めて老いにビビる方たちに襟を正して見せていただかなきゃと思うのが今作なの。
◎気になるあらすじは……?
1960年代のブラジルは軍司独裁政権下の厳しい時代。今のようにゲイやレズビアンなど性的マイノリティに自由はほとんどなかったの。でも、リオ・デ・ジャネイロのヒバル・シアターでは“芸”として才能を開花させたドラァグクイーンたちが存在し、人気を博していたのね。
ブリヂッチ・ディ・ブジオス、
マルケザ
ジャネ・ディ・カストロ
カミレ K
フジカ・ディ・ハリディ
ホジェリア
ディヴィーナ・ヴァレリア
エロイナ・ドス・レオパルド
という8人の、名前がまるで暗号のような面々。
そんな彼女たちのデビュー50周年、そして劇場の創立70周年を記念してライブ「ディヴァイン・ディーバス・スペクタクル」が開催されることに。その舞台の模様とそれまでの道程、彼女たちが語る人生を記録したものなんだけど、まず、ブラジルで一世を風靡したドラァグクイーンのレジェンドたちの存在感に圧倒されたわぁ。リタイアして舞台の仕事から長らく遠ざかっていたシルバークイーンたち。
体も昔みたいに動かないし、肌は引力の法則によって下がって、シワも深く刻まれてる。整形した部分も少しいびつになっているから当然、化粧のノリもよくない。だけど、昔とった杵柄、腐っても鯛。いざメイクをしてラメを振りかけ、スポットライトを浴びればそこにはまごうことなき60年代に活躍したディーバたちのパフォーマーとしての誇りが感じられるの。そして、決して平坦ではなかった人生が垣間見ることができるわ。
◎プライドを持ち生きる、神々しいまでの人生ドラマよ
ヒバルシアターから巣立ち、ヨーロッパでエンタティナーとして活躍した者、ニューヨークで自由を謳歌した者、あることがきっかけで家族から拒絶され精神病院に送られた者、リオのカーニバルで初のクイーン・オブ・バッテリーに選ばれた者など。ヒバルシアターという劇場によって得た8人のその人生は、それぞれが一本の映画になるほどの“濃厚な力”を持っているわ。
過去にしがみつき、ただ酔いしれることはなく、適度にプライドを、がっつりユーモアを、しっかり辛辣な言葉を絶妙にちりばめながら自分のことを話す姿からは、ゲイの品格と風格を勉強させられます。
◎ゲイのヒストリーがあるってこと

ブラジル、リオ・デ・ジャネイロのビーチにはブリヂッチ・ディ・ブジオスのブロンズ像が建てられている。
今は日本でもドラァグクイーンという言葉が割と知られるようになっているけれど、かつてはオカマと一括りにされて、夜のしじまの片隅でこっそり生きてきた時代を経て、80年代はニューハーフが脚光を浴び、やがて90年代のクラブカルチャーやミュージカルの舞台にもなってる「プリシラ」という映画などから、その存在が注目されてきたドラァグクイーン。その黎明期を支えた先駆者たちが、ブラジルにもしっかりといたことを今作で知って、改めて日本のドラァグクイーンを知っていくと面白いかもしれないわね。
もうすでに現時点で亡くなってしまったレジェンドたちもいるけれど、最後にこうやって素晴らしい姿を映像に後世に残せたのはゲイのヒストリーのひとつとしてよかったと思うわ。
MOVIE DATA
「ディヴァイン・ディーバ」(原題/Divinas Divas)
■ 監督・脚本 …… レアンドラ・レアル
■ 出演 …… ブリヂッチ・ディ・ブジオス、マルケザ、ジャネ・ディ・カストロ、カミレK、フジカ・ディ・ハリデイ ほか
■ 公式HP …… http://diva-movie.jp/