4月4日はおかまの節句って誰が言い出したのかしら? はたして、おかまの節句は世の中に認知されているのかしら?世のゲイはどんな過ごし方したのかしらなんて思いながら、ゲイの気持ちに寄り添うオススメ映画をご紹介させていただく架空映画館「テアトル・オネェ」。支配人を務めますヴァニラ・ノブです。
今回取り上げるのは、ゲイにとっては永遠のマスターピースムービー「オズの魔法使」よ。
◎「オズの魔法使」のおすすめポイント
■ゲイにとっての永遠のマスターピース
■ジュディ・ガーランドというゲイアイコンの原点を知ることができるわ
■温故知新で映画を見るなら避けちゃダメな必須作品よ
◎気になるあらすじは……?
アメリカのど真ん中に位置するカンザスに住む少女、ドロシー。
ある日、彼女が住む農場周辺を大きな竜巻が襲い、家ごと吹き上げられてしまうの。
目がさめるとそこはオズという国らしく、グリンダという魔女が彼女の前に現れ、あなたがやってきたおかげで東の魔女が退治され、住人のマンチキンたちが大喜びですと伝えてくれるんだけど、そこへ死んだ東の魔女の妹、西の魔女が現れ、恨みつらみ、そして姉の形見であるルビーの靴を持って帰ろうとするも、その靴はなぜかドロシーの足が履くことに。
「覚えてなさいよ〜!」と去った西の魔女だけど、グリンダが「きっと復讐しにくるから家に帰った方がいいけれど、そのためにはエメラルド・シティに住んでいる魔法使いの協力が必要なの」とアドバイス。というわけで、ドロシーは仕方なく愛犬トトと一緒に冒険のために繰り出すことに。その道中でカカシ男、ブリキ男、ライオンと出会いそれぞれ自分に欠けたものを魔法使いに与えてもらうために同行することになるのだけど、って話。
◎どうしてゲイのマスターピースムービーなのかって?

「オズの魔法使い」は切手にも。とにかくかわいいですね。(spatuletail / Shutterstock.com)
小さい頃にテレビで観たけれど、マンチキンたちや西の魔女の手下たちである空飛ぶ猿のビジュアルが怖くて、それ以降は見れなかった作品。改めて観たのは、この映画がゲイにとって重要な作品であるというのを聞いた20代前半。その時はなんでそこまで? というのが感想。
そして初めてニューヨークに行った時、ゲイが経営しているパーティーグッズのお店では、ちょうどシーズンだったハロウィンのための衣装がたくさんあったのだけど、オススメだったのが「オズの魔法使」のキャラクターのもの。店主が「これは定番」と言ってて、確かにゲイたちによるハロウィンパレードではそれこそマッチョや、ベアー(ヒゲむっちり)などなどのびっくりするようなゲイの数のドロシーたちがルビー色の靴を光らせながら歩いてたり、たくさんのリボンをつけたライオンたち、ブリキ男、カカシ、北の魔女、東の魔女たちが集団で歩いてる姿に、別な意味で魅了されたんだけど、パレードが終わってバーにいた友人の知り合いだというドロシーネェさんに「なんでドロシーのカッコしてるの?」って聞いたら、「ジュディ・ガーランド好きなんだもん」って言ってた。その時、ドロシーを演じていたジュディ・ガーランドがゲイアイコンだと知ったの。
◎ゲイの理解を発展させるきっかけ

白黒のコメディー映画「Presenting Lily Mars」のジュディ・ガーランドの宣伝写真。(パブリック・ドメイン)
ジュディ・ガーランドはこの映画がきっかけとなって大ブレイクし、40年代、50年代に波乱の人生を送りながらも活躍した女優。

ハリウッドのチャイニーズ・シアターのコダックシアターなどが並ぶ歩道に埋められた星のプレートにジュディの名も。(Hayk_Shalunts / Shutterstock.com)
そんな彼女は、60年代からまだ理解がなかったアメリカにおいて同性愛者に対して寛容と理解を示していた有名人の一人(大女優:エリザベス・テーラーやミュージシャン:フランシス・フェイ、濃厚女優:メイ・ウェストなども)。そんな彼女は1969年6月22日に47歳という若さで亡くなったんだけど、葬儀が行われたのが6月27日のニューヨーク。
娘のライザ・ミネリが「母はハリウッドに殺された」って発言し、その意向を汲んでストーンウォール・インという同性愛者が集まるバー近くの教会で執り行われたの。それだけに彼女のファンたちも数多く葬列に参加したそうで、当時の有名人の葬式としては独特の雰囲気がプラスされてたみたい。

ジュディの長女ライザ・ミネリ。ミュージカルに映画に活躍するアメリカの実力派女優。2010年には映画『セックス・アンド・ザ・シティ2』で本人役としても登場した(Joe Seer / Shutterstock.com)
翌日、ニューヨークのみならず同性愛者たちの歴史に刻まれる事件、「ストーンウォールの反乱」が起こってしまうんだけど、当時は前記したように同性愛にまだまだ理解がなかった時代。隠れ家のような存在だったゲイバーに、何度も抜き打ちで手入れがされては、理不尽な連行や逮捕が警察によって行われてたんだけど、お客たちはずっとガマンしてたのよね。でも、この日に限って警察官たちに立ち向かい、やがて暴動にまで発展したの。このことがきっかけとなって、同性愛者らの権利獲得するための運動の転換点となったわ。
◎ゲイのアイコンがすべて詰まっているのよ

ストーンウォール・インの外にある記念碑に手向けられた花。(Leonard Zhukovsky / Shutterstock.com)
この時、同性愛者たちが警官に立ち向かわせるきっかけとなった要因にジュディ・ガーランドの死が大きかったと言われているわ。そのせいか、以降この「オズの魔法使」の「虹の彼方へ」はゲイパレードでは定番曲になってるし、1978年に発案されたレインボーフラッグがゲイ関係のシンボル(カラー)となっているのも、多大にこの映画からの影響は大きいわね。さらに今はもう死語と友人は言ってたけど「Friend of Dorothy=ドロシーの友だち」はいわゆるゲイ業界用語で「お仲間」って感じで使われてたそう(今使う人がいるなら化石クラスの大お姉様かもね)。
◎細部までが精密で魅了されるわ
そんな「オズの魔法使」だけど戦前につくられたとは思えないくらいキッチュでポップな美術。アナログだからこその贅沢なセット、人海戦術(マンチキンは100人もの小さな人を集めたのよ)! 工夫凝らしたメイクの凄さ! なによりカラー映像の美しさと音楽の盤石には度肝を抜かれるわね。
カカシ男の頭脳、ブリキ男のハート、ライオンの勇気というコンプレックスを克服する、したいという願望は、今も皆追い続ける不動のテーマよね(アタシたちはこれに若さが加わるんだけど)。
古い映画だからといって敬遠せず、なぜこの作品が今も世界中で愛されているか再見すればきっと新たな発見と、ゲイな匂いを感じ取れると思うわ。
MOVIE DATA
「オズの魔法使」(原題/THE WIZARD OF OZ)
■ 監督 ヴィクター・フレミング
■ 脚本 …… ノエル・ラングレー、フローレンス・ライアン、エドガー・アラン・ウルフ
■ 出演 …… ジュディ・ガーランド、レイ・ボルジャー、ジャック・ヘイリー、バート・ラー、ビリー・バーク、マーガレット・ハミルトン、フランク・モーガン ほか