ヴァニラ・ノブが支配人を務めさせていただいてます架空映画館「テアトル・オネェ」。
新旧・内外・ジャンルも問わず、オススメの映画をゲイ目線で取り上げてご紹介させていただいてます。今回の上映作品は1971年に公開された007シリーズ7作目「007/ダイヤモンドは永遠に」。
◎「007/ダイヤモンドは永遠に」のおすすめポイント
■ ゲイ・アイコン、シャーリー・バッシーの主題歌は名曲!
■ ゲイの殺し屋が出てくる70年代という時代
■ 007シリーズは時代とともに変化しているから愛されてるのね
◎幼心にかっこよさが伝わったものよ
007の原体験は、テレビでことあるごとにオンエアされていた映画のシリーズでした。幼心にそのすべてがカッコ良く感じたわぁ! 女性の体に今でいうプロジェクションマッピング的にいろんな映像などを投影した、ちょっとエッチなオープニングタイトル(モーリス・ビンダーという007シリーズをはじめ、「太陽がいっぱい」や「シャレード」「バーバレラ」など数々の映画のタイトルを担当した名デザイナー)と、印象に残る主題歌、そして繰り広げられるアクション、個性的な悪役やゴージャスなボンドガール・・・ ストーリーはそんなに理解できなくても、そのカッコ良さと面白さは充分に伝わったわ。

Kraft74 / Shutterstock.com
特に惹かれたのは、007が繰り出す秘密兵器の数々。スケッチブックに自分の考えた秘密道具とかをいろいろ描いていたっけ・・・。大好きだったのはシリーズ10作目「私を愛したスパイ」の中に登場した、当時のお金で約2300万円かけてロータス・エスプリを潜水可能に改造したという水陸両用自動車。海中に入るとハンドルがくるっとひっくり返って水平舵仕様になるし、潜望鏡は出るし、水中銃やラジコンミサイルがあったり、とにかくギミック搭載てんこ盛りで影響受けまくって、自分なりの改造車を描いては母親や学校の同級生に見せたりしてたわ。
◎思い出は、ある日突然に…
ボンド作品のテーマ曲を複数の歌った唯一のアーティスト、シャーリー・バッシー。こちらはイギリスのマダムタッソーでは蝋人形にも。( padmak / Shutterstock.com)今も続く007シリーズ(次作で25作目!)の中で、今回「ダイヤモンドは永遠に」をチョイスしたのは、シャーリーバッシー(ゲイ・アイコンの一人!)が歌う主題歌「Diamonds Are Forever」が、京都のクラブ・メトロで毎月開催されている「ダイヤモンド・ナイト」のメインテーマだったから。
実はドラァグクイーン・パーティーとしては日本じゃ最も古いイベント。今年の4月には、なんと400回目を迎えたのよ!
アタシ自身、このパーティーの1回目からしばらく企画やスタッフとしてお手伝いさせていただいたから、この映画には人一倍思い入れがあるのよねぇ。
◎コネリー再登場策なんだけど、さ…

2005年ショーン・コネリーと妻のミシュラン・ロクブリュヌがヨーロッパ映画賞を受賞した。(360b / Shutterstock.com)
だけど映画の内容としては、どうも全体的にぬるいのよね。ショーン・コネリー演じるジェームズ・ボンド復帰作ではあるんだけど・・・。5作目の日本を舞台にした「007は二度死ぬ」を最後に役のイメージが固定されるのを嫌がって次作「女王陛下の007」を降板したコネリー、代わりにジョージ・レーゼンビーが演じたんだけど、やはりそれまでのイメージが強すぎたせいか(ストーリーは面白いんだけど)、評判が芳しくなく今作のみでフェイドアウト。でもって、再びコネリーが演じることになったの。彼を担ぎ出すためにとんでもない額のギャランティを支払うわ、興行収入の10%も支払うわ、自分が出たい映画の制作費を出すことを約束させるわと、破格の条件を呑んでまでも、コネリー=ボンドのイメージを改めて死守したかったのよねぇ。そんな裏話があるもんだからフィルターがかかっちゃってしまってるのもあるかもしれないけれど、どうしても穿って見ちゃうのよね、アタシは。
◎気になるあらすじは……
南アフリカから発掘されているダイヤモンドが大量に盗まれて、闇市場に流れているという問題があって、イギリスはダイヤモンド産業の9割を独占していたイギリスにとっては死活問題。そこで密輸シンジケートに潜入捜査の命を受けたボンドが運び屋となって動くんだけど、そのバックにはスペクターの首領ブロフェルドが暗躍していたってストーリー。
アムステルダムやロサンゼルスなどを舞台にアクションが繰り広げられ、特に撮影された70年当時のラスベガスの今はなき風景は貴重。
◎時代的にゲイ登場の映画は貴重だったのね
そして、今作でアタシ的に注目したいのがブロフェルドに雇われている二人の殺し屋、ミスター・キッドとミスター・ウィントが、ゲイカップルなのよね。
70年代~80年代はゲイが登場する映画はあったけれど、それは悪役や犠牲者、笑い者にされるのがまだまだ多かったわ。
「バニシング・ポイント」というカーアクションムービーではヒッチハイカーがゲイの強盗だったり、刑事のバディムービー「フリービーとビーン/大乱戦」では女装の殺人鬼だったり、アル・パチーノ主演の「狼たちの午後」は妻の性適合手術のお金をつくるため、銀行強盗するゲイだったり・・・。
それだけに今作でゲイカップルが殺し屋という設定は、昔観たときは気づかなかったけれど、今観ると違和感ハンパないわねぇ、手を繋いだり、やたらとミスター・ウィントが香水を振りかけたりしてるし、セリフのあちこちにキンタマ系の言葉遊びが散りばめられていたり、香水が鍵となって、ミスター・ウィントがボンドにやられた後「尻尾を巻いて逃げたな(He certainly left with his tail between his legs.)」というセリフも、映像を見ればゲイネタに引っ掛けてあるというのがわかるわ。
◎男尊女卑な時代からの変遷ね。今はどうかしら?

2015年9月26日にロンドンでジェームズ・ボンド・スペクターの映画プレミアに出席したダニエル・クレイグ、モニカ・ベルッチとリア・セイドー。(Twocoms / Shutterstock.com)
とはいえ、女性への扱いも今観るとひどい! まさに男性天下な時代の遺物。反面教師として観るといいかもね。時代の変化とともに007シリーズも変わり、女性や人種の扱い、何よりボンド自身のキャラクターも変わったわ。それで作品の質は? と聞かれれば上がったと思う。だって、ダニエル・クレイグが6代目ボンドで初出演した「007 カジノ・ロワイヤル」では海から上がってくる水着姿の彼はまるで、「007 ドクター・ノオ」のウルスラ・アンドレスが演じた初のボンド・ガール、ハニー・ライダーの登場シーンのそれみたい!
さらにはオープンリー・ゲイのベン・ウィショー(「メリー・ポピンズ リターンズ」)が秘密兵器を開発しているQとして登場しているのも、007が変化しているってのがわかるわ。
次作が公開されるまでに、「ダイヤモンドは永遠に」も含めてもう一度007シリーズをおさらいするのもいいかもね。
MOVIE DATA
「007 ダイヤモンドは永遠に」(原題:Diamonds Are Forever)
■ 監督 ガイ・ハミルトン
■ 脚本 トム・マンキーウィッツ、リチャード・メイボーム
■ 出演 …… ショーン・コネリー、ジル・セント・ジョン、チャールズ・グレイ、ノーマン・バートン、ブルース・グローヴァー、パター・スミス、デスモンド・リューミン ほか