日本では、よく耳にする「死」という言葉。とても重い意味があり、生きる者にとって最も恐ろしく、避けて通りたいトピックであることは確かです。しかし、日本人の多くは「もし死んだら〜」と将来の仮定の話をすることも少なくないですし、稀に喧嘩の相手や嫌いな相手に「死ね」というような乱暴な言葉を安易に使う人も存在しています。
日本人の生死観は、仏教などの宗教的背景が関係しているのか、あるいは度重なる災害被害の歴史によって生まれたものなのかは分かりませんが、「死」という言葉が身近にあり、会話の中に登場するのは決して珍しいことではありません。
また、日本人が桜に魅了されるのは「人生は短く儚いもの」だという日本人独特の生死観が影響しているものだとも考えられており、「命」に対するスタンスは、欧米人にはなかなか理解し難いものだとも言われています。
そんななか、この言葉に対して非常に敏感な態度を示すのがイギリス人。それはいったいなぜなのか、今回はその謎をご紹介したいと思います。
たとえ家族の間でもほとんど話題にしない
以前、イギリス人の義理の家族と一緒に過ごしていたときに、著者が「もし死んだら〜」という内容の話をしたことがあります。その瞬間、居合わせた義理家族は一斉に硬直。夫(イギリス人)からは「イギリス人は、一般的な会話の中で絶対に死について話さない」と言われたことを覚えています。
調査によると、イギリスでは「死について人と話したことがある」という人は23%にとどまり、「ソーシャルメディアなどで故人を追悼するメッセージを残したことがある」という人も27%のみだったそう。そのような背景からか、生命保険に入る人も37%という比較的低い数字になっています。
なぜイギリス人にとってそれほどタブーとなったのか?
英バース大学のトニー・ウォルター教授がBBC Newsに「イギリスの人々は死という未知のものへの恐怖心を抱いている」と解説しています。未知なるものへの恐怖心というものは決してイギリス人だけが抱いているものではないはずですが、恐怖心や嫌悪感を強く持つあまりに言葉にすることさえ憚られるのだと言います。
病気になった時の希望を家族に伝えられなかったケースも
最近では日本でも40代から終活を始める人がいることが話題になっています。一方でイギリスでは、重い病や寿命を迎えることで最期が近づいた時に、どんな終活をしたいのかなど、話し合うことさえできる雰囲気ではないそうです。調査では、病院で最期を迎えたいと希望する人は6%足らずにもかかわらず、実際にはイギリスの多くの地域(イングランドやウェールズ)で、ほとんどの人が自宅で最期を迎えることができてないと言われています。
「死」は非常に重いトピックであり、誰にとってもセンシティブな話題であることは疑いようもありません。それだけに、イギリス人にとってはその言葉を耳にすることさえも堪え難いものだそう。イギリス人と会話をする機会がある場合は、この件に関してはよほどのことがない限り、言葉に出さないように気をつけたほうが無難かもしれませんね。