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映画「メゾン・ド・ヒミコ」【テアトル・オネエ第32回】

すでに秋が待ち遠しい、暑いのが苦手なヴァニラ・ノブが支配人を務めさせていただいてます架空映画館「テアトル・オネェ」
新旧・内外・ジャンルも問わず、オススメの映画をゲイ目線で取り上げてご紹介させていただいてます。今回の上映作品は2005年に公開された柴崎コウとオダギリ・ジョー主演の「メゾン・ド・ヒミコ」

◎「メゾン・ド・ヒミコ」のおすすめポイント

■ 日本のゲイの老後を描いた、エポックメイキング作品
■ これからの時代のLGBTQのみならず、おひとりさまにも通じるお話
■ あなたはどんな老後を送りたいかしら?

◎気になるあらあすじは……

塗装会社の事務員をしている吉田沙織の元へ訪ねてきた美青年。名前は岸本春彦。彼は沙織が幼い頃に彼女らを捨てて出て行った父親の恋人だと名乗るの。そして「あなたの父親が末期ガンで余命いくばもないので、よければ老人ホームを手伝って欲しい」と提案されるのね。実は彼女の父親は妻子の元を離れた後、ゲイバー「卑弥呼」のマスターとしていち時代を築き、のちに引退、神奈川県大浦海岸近くにあるゲイのための老人ホーム「メゾン・ド・ヒミコ」を創設していたの。

その事実に愕然とする沙織。

とはいえ、あることで多額の借金を背負った彼女は、提示された破格の日給と遺産を目当てにメゾン・ド・ヒミコに通うことになるわけね。

そこには個性豊かでワケありな入居者たちがいて、最初は嫌悪感しかなかった彼女も、その陽気で開けっぴろげの裏にある複雑な事情を理解するうちに徐々に打ち解けていくものの、ホームに資金を提供していたオーナーが脱税容疑で逮捕されたことがきっかけとなって、ホームの日常に陰りが訪れることに。さらに入居者の一人が亡くなったり、父親がホームの閉鎖を決意したり、いよいよ病状が悪化したりと負の連鎖が・・・。さてメゾン・ド・ヒミコはどうなってしまうのかって話。

◎ココロをえぐり出されるような…

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この映画が公開された頃のゲイバーでの会話はすごく覚えてる。

誰もが抱いていた老後への不安をえぐりだされたようだったから…。メゾン・ド・ヒミコ症候群とでもいうのかしら、この映画がある意味、トラウマになっているゲイは多かったわ。

「アタシならこうするわ」「こんな老人ホームなら住みたい」「場所はやっぱり市内がいいわよね」なんて、ゲイバーで集まっては理想の老人ホームを思い描いてたわ。でもね共通してたのは、あるセリフが、みんな心に引っ掛かってた。「みんなで暮らしたら楽しいと思ってたけど、死ぬ順番を待ってるんだなぁ」・・・。

◎実生活にも今後、影響することよね

数年前、アタシが小学校の同窓会に行って、同級生の一人と話していた時、その子が今は老人ホームを何ヶ所も経営しているって言ったの。その時に、それまでずっと頭の中に描いていたことが急に鎌首をもたげてきて思わず「改めて相談したいことがあるねんけど、また時間つくってくれる?」と、お願いしたの。同級生は「もちろん」と快諾して、後日、彼のオフィスに伺ったのね。で、思い切って自分がゲイであることをカミングアウトした上で「これからはきっと、いや絶対に、LGBTQの老人ホームが必要になると思うの、だからなんとかできないかしら?」と相談したの。同級生は「実は自分もいつかはそういう人たちのために必要なんじゃないかと考えてた」と言ってくれ、て動き出したの。

でも実際に動いてみるといろんな壁があり、なかなか進まない。

で、一度勉強会をしようということで、LGBTQの一部の人たちに集まってもらって話し合ったのね。その時わかったのは、今必要としている人はそういうところへ入ること自体抵抗があるということ。

その建物がLGBTQ専用の老人ホームだとわかれば、そこに入居したことでカミングアウトしたも同然であるという意見。そして老人ホームとなれば補助金が下りたりするけれど、規則が多くルールに縛られてしまう。そういう寮みたいになってはたしてLGBTQは耐えられるか? そしてレズビアンの人はパートナーとそこを終の住処としての位置付け、ゲイはホームを拠点として、まだアクティブに動きたいという位置付けなんだと(もちろん人それぞれの意見はあるので絶対とはいえないけど)。この違いを知った時に、根本的に女性“性”と男性“性”が違うんだなぁと、しみじみ。

そして、LGBTQで一括りにしてしまうことは、やはり荒くたいことなのねと実感したわ。

結局、何度か勉強会や分科会をしたんだけど、今のところ残念ながらストップしている状態。とはいえ、これからLGBTQ向け老人ホーム的なものは、誰もが絶対に必要だと思っているのは確か。その打開策をなんとか見つけたいなぁって思ってるの。

◎誰にでも等しく訪れるわけよ

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改めて、「メゾン・ド・ヒミコ」はそんなぼんやりと抱いてたゲイの老後のイメージを初めて本格的に映像化してくれて、アタシたちを覚醒させてくれたエポック・メイキング的作品。今観ると、オダギリ・ジョーの美青年ゲイぶり。そして柴咲コウの上司に西島秀俊が出ている先取りぶり(まさか10数年後に「きのう何食べた」のシロさんを演じる流れなんて! キャッ)、卑弥呼役の田中泯さんの凛としたオーラと老いてもなおの艶っぽさは必見ね。

多少、時代錯誤な展開もあるけれど、やはり見直していい作品だと思う。ゲイの老人ホームを描いているけれど、これを今、急増しているおひとりさま=シングルの男女に置き換えてみるとまた違った切実さが迫ってくるわ。

MOVIE DATA

「メゾン・ド・ヒミコ」

■ 監督 犬童一心

■ 脚本 渡辺あや

■ 出演 …… オダギリジョー、柴咲コウ、田中泯、西島秀俊 ほか

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