この時期のモノの腐る早さに驚かされ、おちおち味噌汁や常備菜をつくれないなとビビる架空映画館支配人、ヴァニラ・ノブです。
新旧・内外・ジャンルも問わず、オススメの映画をゲイ目線で取り上げてご紹介させていただいてます。今回の上映作品は、今年4月に公開された「マックイーン モードの反逆児」。
◎「マックイーン モードの反逆児」のおすすめポイント
■40歳で自ら命を絶ったアレキサンダー・マックイーンのドキュメンタリー
■溢れる才能を垣間見ることができるコレクションの映像に感激
■称賛だけではないファッションデザイナーの苦悩も浮かび上がらせ、モノを創る人は必見よ
◎ファッション業界の革命児をご存じ?

(TonyV3112 / Shutterstock.com)
アレキサンダー・マックイーンという名前は知ってるかしら。90年代から00年代にかけて、若くして頭角を現し、ロンドンをはじめとして、世界中のファッション業界を席巻し、残念ながら2010年、40歳の若さで自ら命を絶ってしまったデザイナー。
そんな彼の人生を追ったドキュメンタリーが今作。
「ファッション通信」という番組を毎週欠かさず観ていた若かりし頃のアタシ。
今は亡き大きなサングラス、おかっぱ頭が印象的なファッション・ジャーナリスト、大内順子さんの優しい声の解説が好きだったわぁ。しかも何を思ったか、この番組を観てるだけでスタイリストになれるじゃないかしら、とトチ狂ったこと思いだして、モード学園のパンフレットを取り寄せたことも今となってはいい思い出。

(lev radin / Shutterstock.com)
そんな番組で数々のデザイナーやスーパーモデルと呼ばれる人たちの名前を覚え、うわぁ、こんなの着れたらいいなとか、こういうスタイリングだったら工夫すればできるかもなんて思っていた中、大内順子さんの興奮気味の解説で紹介されたのがアレキサンダー・マックイーンだったの。
まずインパクトの強い名前、当時のデザイナーとは一線を画す、粗削りながらも繊細さを感じさせるショウ。そして何より23歳という若さ! 実はアタシと同い年だったのよね、育ってきた環境は違うけどぅじゃないけど、ただただ羨望と嫉妬で彼のことを脳裏に焼き付けたっけ。
◎実は心のライバルだったわ

レディ・ガガの前衛的な衣装も手掛けていた(Everett Collection / Shutterstock.com)
その後もジバンシィのデザイナーとして招かれたり、毎回強烈なテーマとインスピレーションを放つコレクションには注目してた。じゃ、服を買うかっていうと、値段がねぇ… 可愛くないので自分用には諦め、昔付き合った男にTシャツを誕生日プレゼントしたことがあったことも今となってはいい思い出。か・・・!?
それだけに勝手に脳内で潜在的ライバルとして一緒に張り合ってきたんだけれど(一方的に刺激を受けてただけ・・・)、彼が2010年に亡くなったというニュースは本当にショックだった。もちろん久しぶりに「ファッション通信」を観たわ。で、余計に唯一無二の才能がまた一つこの世からなくなってしまったことに改めて絶句したわ。そしてアタシも同じ40歳という節目を迎えて、それまで意識もしてなかった厄年なんて言葉もチラつき、仕事でもプライベートでも人生のうねりというものを身にしみて感じていたから、彼が自ら命を絶ったということに少なからず共感する部分もあったわ。
とはいえ、しばらくすると自分の人生に忙しくなり、彼のことも薄れがちになってた今年、このドキュメンタリーで彼のバックボーンを知って打ちのめされちゃった。
◎気になるあらすじは……
ファッション界というのはそもそも煌びやかな世界だからどうしても、華やかな“陽”の部分を注目しがち。
とはいえ、クリエイターである以上ものを創り出すことが最優先だし、本人もそれを表現したいために頑張ってきたからそれが商業としても成り立たせるためには様々なものと闘わなくちゃいけない。
「たかが洋服さ」とマックイーンはインタビューの中で言ってるんだけど、これは自分に言い聞かせる言葉だったんだろうなぁと思ったわ。そう思わないと自分が飲み込まれていくような気がしてたんじゃないかしら。
ここ数年、ざざっと挙げると…
「プラダを着た悪魔」のモデルになった『VOGUE』の編集長、アナ・ウィンターに密着した「ファッションが教えてくれること」、同じく彼女が主催する大規模なファッションチャリティパーティを紹介した「メットガラ ドレスをまとった美術館」。

『VOGUE』の編集長、アナ・ウィンター(DKSStyle / Shutterstock.com)
長年ファッションアイコンとして愛されてきたアイリスに密着した「アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー」、ディオールのデザイナーになったラフ・シモンズの初オートクチュールの裏側を密着した「ディオールと私」や「マーク・ジェイコブズ&ルイ・ヴィトン モード界の革命児」。

中央の赤い服がアイリス・アプフェル( Ron Adar / Shutterstock.com)

ラフ・シモンズ( FashionStock.com / Shutterstock.com)
靴の魔術師の裏側を浮かぶ上がらせる「マノロブラニク~トカゲに靴を作った少年」。
さらに世界的ファッションデザイナーたちのドキュメンタリー「イヴ・サンローラン」、「ファッションを創る男~カール・ラガーフェルド~」、「アルマーニ」、「ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男」、「ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス」、「We Margiela マルジェラと私たち」。

カール・ラガーフェルド(Andrea Raffin / Shutterstock.com)
フランス版『VOGUE』の編集長のその後の活躍を追った「マドモアゼルC ファッションに愛されたミューズ」、ニューヨークの熟女ファッショニスタたちを描いた「アドバンスト・スタイル」、五番街にある老舗デパートの魅力と裏側を描いた「ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート」、伝説のファッション・エディターを描いた「ダイアナ・ヴリーランド 伝説のファッショニスタ」、そしてルブタンなど靴デザイナーなどを追った「私が靴を愛するワケ」などと、ファッション界をテーマにしたドキュメンタリーが数多く公開されているけれど、今作は彼のコレクションのショウと、彼の周辺の人たちのインタビューが他のドキュメンタリーとはまた違った異彩を放って、称賛や賛辞ばかりではない闇もしっかり浮かび上がらせているのね。仕事仲間に対しての裏切りやエゴや軋み、ドラッグへの依存、体型のコンプレックス、ゲイとして私生活・・・。とはいえ、そういった部分と背中合わせというか乗り越えながら発表されたコレクションの素晴らしさは改めて感じ入る部分があるわ。
ただただ突き進みながらも最終的には自殺という選択をしてしまった彼の20年余りの人生の爪痕をこのドキュメンタリーを通じて再評価してほしいわ。なんだか、モノが腐る事の早さにビビる小物の自分にへこんじゃったわ。
MOVIE DATA
「マックイーン モードの反逆児」(原題:McQueen)
■ 監督・製作 イアン・ボノート
■ 監督・脚本 ピーター・エテッドギー
■ 音楽 マイケル・ナイマン
■ 出演 …… アレクサンダー・マックイーン、イザベラ・ブロウ、トム・フォード ほか
■公式HP …… http://mcqueen-movie.jp/