「麻の葉」、「七宝(しっぽう)」、「籠目(かごめ)」、「千鳥」……。
いつだったか、どこかで聞いたことのあるこれらの名前は、私たち日本人になじみの深いもの。日本に古くからある伝統模様の名前です。ひとことで「模様」といっても、その背景にある歴史や意味は奥深く、縁起もさまざま。
そんな日本の伝統模様のなかから、今回は「矢羽根・矢絣」をご紹介しましょう!
矢羽根・矢絣(やがすり)模様の由来と縁起
矢羽根(矢羽)とは、矢がよく飛ばせるために、また飛ぶ方向を安定させるために付けられたものです。高級品はワシやタカ・キジなどで、その他ニワトリやカモなどの羽が使われます。
時代劇でもよく見られますが、弓矢は戦においても重要な武器でした。立派な弓矢は男子の健やかな成長を象徴するものとして、五月人形とセットになっています。
一度放たれた矢は真っすぐに飛んで行きます。その力強さから、魔を払う縁起がいいものとされてきました。そんな矢が模様化されたのが矢羽根模様で、絣で織られた、矢羽根の後ろ側がかすれたようになっている模様を矢絣(やがすり)と呼びます。
射た矢は戻ってこないことから、江戸時代は結婚する女性に矢羽根模様の着物を持たせ、出戻らないようにという願いを込めたといいます。ここから、未婚女性を象徴する模様となっていきました。
大正時代の女学生の制服!

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西洋化がすすむ、明治大正期。明治中期、宮中に勤めていた経験のある、女学校の学監の女性が、女学生も動きやすい服装をということで袴の着用を提唱しました。
袴の色は宮中の未婚女性が身につける色に基づいて海老茶色、着物は未婚女性を象徴する矢羽根模様が採用され、この組み合わせは大人気となりました
この制服を着た大正女学生の姿を生き生きと描いたコミックが、大和和紀作の「はいからさんが通る」です。1975年に連載が開始されて以来、海老茶の袴と矢羽根模様の着物を身につけたおてんばな主人公の姿が、日本人女子の脳裏に刻み込まれたのです。
大奥女中の制服も…

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矢羽根模様が未婚女性の模様というエピソードをもうひとつ。江戸時代の大奥で働く奥女中の制服着物は、矢羽根模様でした。魔除けの模様ということで採用されたようですが、将軍様に人生を捧げて、ほとんど奥から出ることもなかったという大奥の女性を象徴するエピソードといえるのではないでしょうか。