今更ながら海に行きたいために体を鍛えようと思っている架空映画館支配人、ヴァニラ・ノブです。
新旧・内外・ジャンルも問わず、オススメの映画をゲイ目線で取り上げてご紹介させていただいてます。今回の上映作品は2018年公開の「君の名前で僕を呼んで」です。
◎「君の名前で僕を呼んで」のおすすめポイント
■ 大人になる前の少年と大人になった青年のひと夏の経験
■ 北イタリアの素晴らしい風景の中の正しいBL
■ ティモシー・シャラメの美少年、アーミー・ハマーの美青年に注目よ
◎気になるあらすじは……
80年代初頭、北イタリアの避暑地を舞台に、美術史の研究をしている大学教授の父の家に助手としてやって来た24歳の青年、オリヴァーと、その家の一人息子、17歳の少年エリオとのひと夏の恋を描いた物語。
◎完璧な男前たちが織り成すストーリー

2018年パームスプリングス国際映画祭での写真。左からティモシー・シャラメとアーミー・ハマー(Kathy Hutchins / Shutterstock.com)
公開時に見たときに、ただただ草いきれにむせかえるような作品だったなぁってことを思い出したわ。
17歳の少年と青年の間を行き来する存在エリオには、まさに美少年、まるで竹宮恵子の「風と木の詩」(例えが古いわね)に登場するキャラクターのようなティモシー・シャラメ。

ティモシー・シャラメ( Tinseltown / Shutterstock.com)
そして24歳の青年オリヴァーには、アーミー・ハマー。「白雪姫と鏡の女王」の木偶の坊の王子様や「ローン・レンジャー」の実は助けられてばかりの西部のヒーロー、「コードネームはU.N.C.L.E.」の現実味のないスパイなどと、ある意味完璧な男前ゆえ、かえって捉えどころのないふわふわとしたキャラクターのイメージだった彼がやっと、今作でその完璧さとふわふわさを昇華させて一皮むけたなぁって思ったの。

アーミー・ハマー(Andre Luiz Moreira / Shutterstock.com)
◎溢れかえる胸ドキュン
ただ好きという気持ちが、お互いの距離を縮めていく。男女なら当たり前だけど、同性同士ならそこにセクシャリティの問題が当然絡んでくるけれど、今作にはそういったものがほぼない。好きであることに理由なんていらないから。とはいえ、それが避暑地のけだるい夏のせいなのか、危うさと脆さを兼ね備える年齢のせいなのか、見ながらふと頭をよぎったりするけれど、細かいエピソード、それにまつわる気持ちの変化からくるエリオがオリヴァーに対して徐々に惹かれていく距離の縮まり方にいちいち胸キュン、胸ドキュンが止まらないの。
心から欲しているものを手に入れることで、逆に失くすことへの恐れが大きくなっていく揺らぎ、そして不完全だからこそ完全になりたい矛盾がほろ苦く描き出されていて、淡々とした中のシュッと走る風のようなエモーショナルな部分が胸にグッと残るわ。
◎いつまでも色褪せない恋を描けるのね

監督のジェームズ・アイヴォリー(Denis Makarenko / Shutterstock.com)
原作小説を見事に脚色したのが、映画監督でもあるジェームズ・アイヴォリー。かつて「モーリス」という、腐女子には「アナザー・カントリー」と並んでバイブルとされるゲイ・ムービーを監督した彼が、90歳近くにも関わらずこれだけみずみずしいラブストーリーを描けるなんて! さすが、老人となってもゲイは恋をするということを忘れないわぁ。見習わなきゃ。そう思うと、ルキノ・ビスコンティ監督の若者に恋をする老作曲家を描いた「ベニスに死す」と見比べると面白いかも。
◎映画の後も心に残る言葉が刺さるの
ひと夏の恋は圧縮された恋、刹那な恋と言われたりするけれど、今作もあるエンディングが待っているんだけど、それを救ってくれるのがエリオに父親の言葉。
「ひとの心と肉体はたった一度しか与えられないものなんだ。そして、そのことに気づく前に心は擦り切れてしまう。今はただ悲しく辛いだろう。だが、それを葬ってはいけない。お前が感じた喜びをその痛みとともに葬ってはいけない」
この言葉がエンディングのエリオの姿とともに脳裏に焼き付いて離れなくなるわよ。
MOVIE DATA
「君の名で僕を呼んで」(原題:CALL ME BY YOUR NAME)
■ 監督 ルカ・グァダーニ
■ 脚色 ジェームズ・アイボリー
■ 原作 アンドレ・アシマン
■ 出演 …… ティモシー・シャラメ、アーミー・ハマー ほか
■公式HP …… http://cmbyn-movie.jp/