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映画「トム・オブ・フィンランド」【テアトル・オネエ最終回】

今回で最終回&当架空映画館も閉館を迎えます。
残念ですが、またお会いできれば嬉しいなぁと思う支配人、ヴァニラ・ノブです。

新旧・内外・ジャンルも問わず、オススメの映画をゲイ目線で取り上げてご紹介させていただいてます。最終上映作品は8月2日より全国順次公開される「トム・オブ・フィンランド」です。

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◎「トム・オブ・フィンランド」のみどころは

■ 様々なアーティスト、ゲイに影響を与えた偉大なるフィンランドのトムさん
■ 大正、昭和ガマの苦難が偲ばれる同性愛者出会いの場面も注目
■ 偉大なるゲイエロティックアートを皆さんも再認識してほしいわ

◎で、トムさんって?

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(Olga Popova / Shutterstock.com)

ゲイエロティックアートのパイオニアとして、彼の描いた絵はミュージシャンのフレディ・マーキュリーや写真家のロバート・メイプルソープ、ファッションデザイナーであり、映画監督でもあるトム・フォード、「YMCA」で一斉を風靡し、まさに彼の絵を体現したビジュアルのヴィレッジ・ピープル、日本では「弟の夫」がNHKでドラマ化されたゲイエロティックアーティスト、田亀源五郎などなど影響を受けたアーティストは枚挙にいとまがなく、さらにその絵で世界中のゲイにどれだけの興奮と励み、感嘆、そして股間への刺激を与えか数知れない、“フィンランドのトムさん”ことトム・オブ・フィンランドの半生を描いた物語が今作。

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日本でも絶大な人気を誇るフレディ・マーキュリー(Kraft74 / Shutterstock.com)

◎衝撃を受けたオーラのような…

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ベッドルームにトム・オブ・フィンランドのアート。大迫力。(SariMe / Shutterstock.com)

アタシも昔(80年代後期)、「薔薇族」いうゲイ雑誌で彼の絵を見たとき、身体中に電流が走ったわぁ。鉛筆で描かれた超マッチョな体にぴったり張り付いたライダースジャケットや制服。そしてプリッとしたお尻に、ジーンズやパンツに収まりきらないびっくりするような股間のモッコリ。デフォルメされていて、どう考えても異質なはずなのにそれを肯定せざるを得ない眩しいばかりの笑顔の男たち。それまで見たことのない、初めて出会ったタイプの絵だったわ。これで、アタシの中の外国人のゲイのイメージは固定されたと言っても過言じゃない。あまりにも強烈でトゥーマッチ。むせかえるようなエロティックさ、隠微で秘密めいたもの、決して堂々と見るタイプの絵じゃない、こっそりと見るような絵だなぁと感じ取ってた。そう、古本屋の片隅で見かけた「風俗奇譚」「奇譚クラブ」と言ったアブノーマルなネタを扱っていたカストリ雑誌のようなオーラ。

そんな絵を描き続けたアーティストが一体どんな人物なのか正直、気にしたことがなかったし、そもそもトム・オブ・フィンランドって名前自体がどういう人物かをぼやかしているし、どんな由来を持っていたのかもわからなかった。第一、当時の日本じゃまだまだ情報量が少なく、絵だけがただただ一人歩きしている印象を受けてたわ。

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様々なグッズになっていることからも彼のアートの影響力の高さが分かります。(SariMe / Shutterstock.com)

のちにニューヨークを旅した時、ゲイ専門の本屋兼、雑貨屋を除くと当然のように彼の書籍があって、その種類の多さに目をときめかせ、さらにTシャツやトートバッグ、クッション、ファブリック、香水などグッズの充実ぶりにびっくりして、その時は個人的にピローケースとコースターを購入したっけ。

◎新旧ゲイで受ける印象は変わるかも

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そんな彼の人生が映画化されると知ったのは今から3年ほど前。長らく記憶の片隅に追いやっていた名前だったから本当に驚いたと同時に、やっと彼のことを知ることができるんだという好奇心が強かった。そして昨年、日本では映画祭で上映されただけで、そのまま未公開になるのかと思い、Amazonで輸入版を購入。でもね、フィンランド語だからなかなか内容が頭に入らなくて・・・。で、今回、日本での公開が決定したということで字幕版を見たんだけど、これが平成ガマ以前の者にとっては背徳な興奮と苦渋、ゲイの貪欲さを思い出させてくれる内容になっていたの。

◎気になるあらすじは……

第二次世界大戦後、フィンランドに帰還したトウコ・ラークソネン(のちのトム・オブ・フィンランド)は戦地でのことを思い出しては戦争の心の傷に苦しみつつも反面、そこで出会った男たちを妄想して描き続ける日々を送っていたのね。

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今でこそゲイに寛大なイメージのあるフィンランドも、当時は同性愛は法律で禁止されていたから、出会いといえば森の中や公園のハッテン場でこっそりとアイコンタクトや目印などでゲイアンテナを駆使し相手を探すくらいしかなかったから、欲望のはけ口として絵に没頭していくの。次第にその絵は地元などのゲイコミュニティで評判となり、やがてアメリカのボディビル雑誌に送ってみると、なんと表紙を飾ることに。

当時、ゲイ雑誌はご法度だったからフィットネスやボディビルという大義名分で男の裸を載せる雑誌を出していたのね。それに彼の絵が採用されたことで、アメリカのゲイコミュニティはゲイ=sissy(ナヨナヨした)から一変するのと彼の絵のキャラクターがトレンドにもなっていくの。

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同時に、彼の生活も一変。アメリカのサンフランシスコやニューヨークで展覧会が行われると大成功し、フィンランドとアメリカを行き来して、ゲイとしての解放感を謳歌しだすのだけど、やがてエイズの発症が報告され、同性愛者のバッシングが激しくなっていく・・・。

◎意図せず共感を呼ぶ価値観

トウコさんのアンビバレントな性癖が不思議だったわ。戦地での苦労、心の傷、警察官から虐げられる屈辱などあるにも関わらず、絵には兵服や制服に身を包んだ屈強な男たちが笑顔で抱き合ったり弄りあったりしてる。嫌いだけれど好きなものは好きだから描かずにはいられない、という独特な価値観というか性への嗜好。とはいえ、それが意図せずにアメリカのゲイコミュニティに共感され広がっていったのだから面白いわね。

フィンランドでの上官との関係、恋人との関係、妹との関係と、アメリカでの支援者たちとの関係の細やかな描き方は胸にグッとくるものがあり、涙する場面も。

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2014年にフィンランド郵便が発行したトム・オブ・フィンランドの記念切手(Olga Popova / Shutterstock.com)

アタシ自身、最初は下心もあって、今作を見たのだけれど、自分を認めない社会だった中で、絵を描くことによって自分は自分であるということを認めさせ、多大なる影響力を与え(2014年にはフィンランド郵便の切手にまで!)、今もその影響は確実にあるということを知らしめた男性の物語だったわぁ。アタシも少なからず、影響を与える人生を送りたいと思った次第。

MOVIE DATA

「トム・オブ・フィンランド」(原題:Tom of Finland)

■ 監督 ドメ・カルコスキ
■ 製作・脚本 アレクシ・バルディ
■ 原案 アレクシ・バルディ、ドメ・カルコスキ
■ 出演 …… ペッカ・ストラング、ジェシカ・グラボウスキー、ラウリ・ティルカネン ほか
■公式HP …… http://www.magichour.co.jp/tomoffinland/

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